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ディラック作用素と外微分・余微分

微分からディラック作用素を抽出して外微分と余微分に分離します。クリフォード代数も簡単に導入します。

D=D∧+D\cdot=d-δ

【2018.07.22】全面的に改訂しました。

シリーズの記事です。

  1. ディラック作用素と外微分・余微分 ← この記事
  2. ディラック作用素とラプラシアン
  3. ディラック作用素で2次元と4次元を計算

以下の記事を前提としています。

マクスウェル方程式複素解析への応用は以下の記事を参照してください。

微分形式の余微分は以下の記事を参照してください。

目次

ディラック作用素

3次元のスカラー場 $f(x,y,z)$ を全微分します。

df=\frac{∂f}{∂x}dx+\frac{∂f}{∂y}dy+\frac{∂f}{∂z}dz

$dx,dy,dz$ を基底ベクトルと見なせば全微分は grad と同一視できます。

df≅\mathrm{grad}f=\left(\begin{matrix}f_x\\f_y\\f_z\end{matrix}\right)

$dx,dy,dz$ を前に出せば $f$ が括り出せます。

df=\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}+dz\frac{∂}{∂z}\right)f

※ $dx,dy,dz$ は $x,y,z$ とは独立で偏微分を素通りするため、後ろのままでも問題はありません。(極座標ではお釣りが出ます)

両辺から $f$ を取り除けば、$d$ の実体が見えて来ます。

d=dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}+dz\frac{∂}{∂z}

$d$ は微分形式では外微分作用素と呼びます。今回は外微分作用素とは異なる使い方をするため、別の記号 $D$ で表記してディラック作用素と呼びます。

D:=dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}+dz\frac{∂}{∂z}

※ この定義はナブラ $∇$ と同じです。ディラック作用素はナブラを一般化したものです。また、次で見るラプラシアンに絡めた導入はディラック方程式と関係があります。

【参考】 EMANの物理学・量子力学・ディラック方程式

ラプラシアン

ディラック作用素ラプラシアンラプラス作用素)の平方根となるように定義されます。2乗すればラプラシアンを再現します。

\begin{aligned} D^2 &=D\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}+dz\frac{∂}{∂z}\right)\\ &=\left(D\frac{∂}{∂x}\right)dx+\left(D\frac{∂}{∂y}\right)dy+\left(D\frac{∂}{∂z}\right)dz\\ &=\left(dx\frac{∂^2}{∂x^2}+dy\frac{∂^2}{∂y∂x}+dz\frac{∂^2}{∂z∂x}\right)dx\\ &\quad+\left(dx\frac{∂^2}{∂x∂y}+dy\frac{∂^2}{∂y^2}+dz\frac{∂^2}{∂z∂y}\right)dy\\ &\quad+\left(dx\frac{∂^2}{∂x∂z}+dy\frac{∂^2}{∂y∂z}+dz\frac{∂^2}{∂z^2}\right)dz \end{aligned}

偏微分の順序は交換可能とします。

\begin{aligned} D^2 &=dx^2\frac{∂^2}{∂x^2}+dy^2\frac{∂^2}{∂y^2}+dz^2\frac{∂^2}{∂z^2}\\ &\quad+(dx\,dy+dy\,dx)\frac{∂^2}{∂x∂y}\\ &\quad+(dy\,dz+dz\,dy)\frac{∂^2}{∂y∂z}\\ &\quad+(dz\,dx+dx\,dz)\frac{∂^2}{∂z∂x} \end{aligned}

ラプラシアンと比較します。

\Delta=\frac{∂^2}{∂x^2}+\frac{∂^2}{∂y^2}+\frac{∂^2}{∂z^2}

ここで次の関係(クリフォード代数の関係式)を認めれば $D^{2}=\Delta$ となります。

dx^2=dy^2=dz^2=1\\ \begin{aligned} dx\,dy+dy\,dx&=0&&⇔&dx\,dy&=-dy\,dx\\ dy\,dz+dz\,dy&=0&&⇔&dy\,dz&=-dz\,dy\\ dz\,dx+dx\,dz&=0&&⇔&dz\,dx&=-dx\,dz \end{aligned}

このように計算する積を幾何積と呼びます。これを使えばラプラシアンだけでなく grad rot div も計算できます。

幾何積

幾何積は内積外積の和として捉えることができます。

\underbrace{αβ}_{\text{幾何積}}=\underbrace{α\cdotβ}_{\text{内積}}+\underbrace{α∧β}_{\text{外積}}

外積演算子 $∧$ については後述します。

$dx,dy,dz$ を正規直交基底とします。

自分自身との幾何積は、外積が $0$ となるため内積だけを含みます。

\underbrace{dx\,dx=dy\,dy=dz\,dz}_{\text{幾何積}}=\underbrace{1}_{\text{内積}}+\underbrace{0}_{\text{外積}}

直交する基底との幾何積は、内積が $0$ となるため外積だけを含みます。

\underbrace{dx\,dy}_{\text{幾何積}}=\underbrace{0}_{\text{内積}}+\underbrace{dx∧dy}_{\text{外積}}

このように正規直交基底の幾何積は内積外積のどちらかです。スカラー成分は内積、それ以外は外積です。

ウェッジ積

幾何積で扱う外積は通常のベクトル解析とは少し異なるため、ウェッジ積演算子 $∧$)と呼んで区別します。特に断らない場合、この記事での外積はウェッジ積を指します。

※ ベクトル解析で出て来る外積演算子 $×$)はベクトル積またはクロス積と呼びます。

外積が表すのは2本のベクトルによって張られる面です(左図)。長さの単位 $\mathrm{m}$ を掛け合わせて面積の単位 $\mathrm{m}^{2}$ が得られるのと同じような考え方です(右図)。

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※ 前述のように直交する基底の内積は $0$ となり幾何積はウェッジ積と一致するため、演算子 $∧$ は省略します。

ウェッジ積は演算対象の順番を入れ替える(交換する)と符号が反転します。この性質を反交換性と呼びます。

\begin{aligned} dx\,dy&=-dy\,dx\\ dy\,dz&=-dz\,dy\\ dz\,dx&=-dx\,dz \end{aligned}

反交換性は面の向き(表裏のようなもの)を表します。向きには任意性がありますが、反時計回りを正とすることが一般的です。

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同様に3つの基底のウェッジ積 $dx\,dy\,dz$ は体積を表します。

グレード

項に含まれる基底の数をグレードと呼びます。基底として微分形式($dx$ など)を使用している場合、グレードnをn-形式と呼びます。

※ それ以外の基底ではn-ベクトルと呼んで区別します。これは双対空間に由来します。

同じ基底同士の積は内積として対消滅するため、基底の数とグレードの最大値は一致します。

※ 詳細は省略しますが、このような構造を生成する仕組みを商代数と呼びます。

$dx,dy,dz$ によって得られる組み合わせをグレード別にまとめます。基底の数は n 次元 m-形式では ${}_n\mathrm{C}_m$ によって決まります。

グレード 説明 基底の数 基底
0 スカラー ${}_3\mathrm{C}_0=1$ $1$
1 ベクトル ${}_3\mathrm{C}_1=3$ $dx,\ dy,\ dz$
2 擬ベクトル ${}_3\mathrm{C}_2=3$ $dx\,dy,\ dy\,dz,\ dz\,dx$
3 スカラー ${}_3\mathrm{C}_3=1$ $dx\,dy\,dz$

※ 擬ベクトル・擬スカラーについては後述します。

ベクトル積

ベクトル積は2本のベクトルに直交するベクトルを表します。軸方向の単位ベクトルを $x,y,z$ とすれば以下の関係があります。

\begin{aligned} x×y&=z\\ y×z&=x\\ z×x&=y \end{aligned}

※ 巡回的に並べて $(x,y,z,x,y,z)$ 連続した3つの要素を抜き出した関係です。

これは面と法線の関係だと見ることができます。例えば $x×y=z$ は 面 $xy$ の法線 $z$ に相当します。

擬ベクトル・擬スカラー

ベクトル解析では2-形式に相当する表現がないためベクトルとして現れます。1-形式に相当するベクトルが本来のベクトルで、2-形式に相当するベクトルは擬ベクトルと呼びます。

同様に3-形式に相当する表現もないためスカラーとして現れます。これをスカラーと呼びます。

擬ベクトルや擬スカラーは見た目からベクトルやスカラーとの区別が付きにくいですが、右手系と左手系の座標変換で向きが反転することから区別できます。

ベクトル場

ディラック作用素をベクトル場(1-形式 $ω_1$)に作用させます。

ω_1=f(x,y,z)dx+g(x,y,z)dy+h(x,y,z)dz\\ \begin{aligned} Dω_1 &=D(f\,dx+g\,dy+h\,dz)\\ &=Df\,dx+Dg\,dy+Dh\,dz\\ &=(f_x\,dx+f_y\,dy+f_z\,dz)dx\\ &\quad+(g_x\,dx+g_y\,dy+g_z\,dz)dy\\ &\quad+(h_x\,dx+h_y\,dy+h_z\,dz)dz \end{aligned}

$D$ が各項に分配され、係数部分の関数に作用して勾配(grad)が得られました。

勾配と基底との幾何積を計算します。内積外積を分離すれば、内積スカラー外積が2-形式となります。

\begin{aligned} Dω_1 &=f_x\underbrace{dx^2}_1+f_y\underbrace{dy\,dx}_{-dx\,dy}+f_z\,dz\,dx\\ &\quad+g_x\,dx\,dy+g_y\underbrace{dy^2}_1+g_z\underbrace{dz\,dy}_{-dy\,dz}\\ &\quad+h_x\underbrace{dx\,dz}_{-dz\,dx}+h_y\,dy\,dz+h_z\underbrace{dz^2}_1\\ &=\underbrace{f_x+g_y+h_z}_{\text{内積}}+\underbrace{(h_y-g_z)dy\,dz+(f_z-h_x)dz\,dx+(g_x-f_y)dx\,dy}_{\text{外積}} \end{aligned}

外積の基底の並べ方はベクトル解析との対応を考慮しています。

面(yz,zx,xy)\ →\ 法線 (x,y,z)

これをディラック作用素との内積外積だと再解釈します。係数が演算子をすり抜けてディラック作用素と作用します。

\begin{aligned} Dω_1 &=\underbrace{D\cdotω_1}_{\text{内積}}+\underbrace{D∧ω_1}_{\text{外積}}\\ &=D\cdot(f\,dx+g\,dy+h\,dz)+D∧(f\,dx+g\,dy+h\,dz)\\ &=\underbrace{Df\cdot dx+Dg\cdot dy+Dh\cdot dz}_{\text{内積}}+\underbrace{Df∧dx+Dg∧dy+Dh∧dz}_{\text{外積}} \end{aligned}

ディラック作用素との内積は div、外積は rot に対応します。

\begin{aligned} D\cdotω_1&≅\mathrm{div}\left(\begin{matrix}f\\g\\h\end{matrix}\right)=f_x+g_y+h_z\\ D∧ω_1&≅\mathrm{rot}\left(\begin{matrix}f\\g\\h\end{matrix}\right)=\left(\begin{matrix}h_y-g_z\\f_z-h_x\\g_x-f_y\end{matrix}\right) \end{aligned}

※ ベクトル解析でのナブラによる $∇\cdot=\mathrm{div}$ や $∇×=\mathrm{rot}$ とほぼ同じです。

ディラック作用素との対応関係を見れば rot の結果が擬ベクトルだと分かります。ベクトル解析では区別が消えています。

微分・余微分

外積によってグレードが上がる微分微分と呼ばれ作用素 $d$ で表します。グレードが下がる微分は外微分の双対として微分と呼ばれ作用素 $δ$ で表します。

※ 「余」が双対を表す例として、正弦(sin)の双対が弦(cos)です。

ディラック作用素との外積は外微分と一致しますが、内積は余微分の符号反転です。

D=D∧+D\cdot=d-δ

微分が符号反転するのは由来がディラック作用素とは異なるためです。今回はディラック作用素の計算のみを扱うため余微分は常に符号反転して現れます。以降は符号反転とは断らずに余微分と呼びますが、数式では $-δ$ と表記します。

※ 余微分の由来を知らなくてもディラック作用素は計算できるため、説明は省略します。詳細は以下の記事を参照してください。

微分はグレードが上がり、余微分は下がります。グレードとして許される範囲からはみ出すと $0$ になります。

演算 名前 作用素 グレード
$D∧$ 微分 $d$ $+1$
$D\cdot$ 微分 $-δ$ $-1$

0-形式と1-形式にディラック作用素を適用したときのイメージ図です。この図は元ニート2号さんの発案によります。

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これらを組み合わせればラプラシアンの動きが分かります。

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※ 0-形式以外については続編の記事を参照してください。

計算例

いくつか計算例を見ます。

2-形式

ディラック作用素を2-形式 $ω_2$ に作用させます。

ω_2=f(x,y,z)dy\,dz+g(x,y,z)dz\,dx+h(x,y,z)dx\,dy\\ \begin{aligned} Dω_2 &=Df\,dy\,dz+Dg\,dz\,dx+Dh\,dx\,dy\\ &=(f_x\,dx+f_y\,dy+f_z\,dz)dy\,dz\\ &\quad+(g_x\,dx+g_y\,dy+g_z\,dz)dz\,dx\\ &\quad+(h_x\,dx+h_y\,dy+h_z\,dz)dx\,dy \end{aligned}

幾何積で同じ基底を含む場合、反交換性で隣接させてから内積を計算します。これによりグレードが減ります。

例:\ dx\,\underbrace{dz\,dx}_{-dx\,dz}=-\underbrace{dx\,dx}_1\,dz=-dz

これを使って計算を続けます。グレードの増減で外微分と余微分を分けます。

\begin{aligned} Dω_2 &=f_x\,dx\,dy\,dz+f_y\,\underbrace{dy\,dy\,dz}_{dz}+f_z\,\underbrace{dz\,dy\,dz}_{-dy}\\ &\quad+g_x\,\underbrace{dx\,dz\,dx}_{-dz}+g_y\,\underbrace{dy\,dz\,dx}_{dx\,dy\,dz}+g_z\,\underbrace{dz\,dz\,dx}_{dx}\\ &\quad+h_x\,\underbrace{dx\,dx\,dy}_{dy}+h_y\,\underbrace{dy\,dx\,dy}_{-dx}+h_z\,\underbrace{dz\,dx\,dy}_{dx\,dy\,dz}\\ &=\underbrace{(g_z-h_y)dx+(h_x-f_z)dy+(f_y-g_x)dz}_{\text{余微分}\ -δω_2}+\underbrace{(f_x+g_y+h_z)dx\,dy\,dz}_{\text{外微分}\ dω_2} \end{aligned}

ベクトル解析($∇\cdot,∇×$ )との対応が1-形式とは逆になります。rot にはマイナスが現れます。

\begin{aligned} D\cdotω_2&≅-\mathrm{rot}\left(\begin{matrix}f\\g\\h\end{matrix}\right)=-\left(\begin{matrix}h_y-g_z\\f_z-h_x\\g_x-f_y\end{matrix}\right)\\ D∧ω_2&≅\mathrm{div}\left(\begin{matrix}f\\g\\h\end{matrix}\right)=f_x+g_y+h_z \end{aligned}

※ div の結果は擬スカラーです。

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3-形式

ディラック作用素を3-形式 $ω_3$ に作用させます。結果だけ書きます。

ω_3=f(x,y,z)dx\,dy\,dz\\ Dω_3=\underbrace{f_x\,dy\,dz+f_y\,dz\,dx+f_z\,dx\,dy}_{\text{余微分}\ -δω_3}+\underbrace{0}_{\text{外微分}\ dω_3}

微分によりグレードが上がりますが、4-形式はないため $0$ になります。

Dω_3≅\mathrm{grad}f=\left(\begin{matrix}f_x\\f_y\\f_z\end{matrix}\right)

※ grad の結果は擬ベクトルです。

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まとめ

グレード別にディラック作用素とベクトル解析の対応をまとめます。

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微分・余微分でまとめれば、鏡写しになっていることが分かります。

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グレードに応じた微分にベクトル解析では名前が付いていることが把握できれば、色々と見通しが良くなると思います。