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余微分の定義を追う

微分は外微分の随伴として定義されます。ライプニッツ則の延長線上で考えると分かりやすいです。

微分形式の式展開は添え字が複雑になりがちですが、読み方のコツを書きました。分かりにくい点は、繰り返しをいとわず何度も書きました。

シリーズの記事です。

  1. ホッジ双対とクリフォード代数
  2. マルチベクトルの内積
  3. 微分の定義を追う ← この記事
  4. 2~4次元で余微分を計算
  5. 2~4次元で余微分とディラック作用素を比較
  6. 外積代数と左内積
  7. 余微分とディラック作用素の内積部分
  8. 左内積とウェッジ積の交換
  9. 余微分のライプニッツ則

目次

定義

微分は外微分の随伴として定義されます。

wikipedia:ホッジ双対余微分形式より:

δ=(-1)^{nk+n+1}s\star\mathrm d\star=(-1)^k\star^{-1}\mathrm d\star
微分は外微分に随伴する、すなわち $(η,δζ)=(\mathrm dη,ζ)$ である。
\begin{aligned} 0 &=\int_M\mathrm d(η∧\star ζ) \\ &=\int_M(\mathrm dη∧\star ζ-η∧\star(-1)^{k+1}\star^{-1}\mathrm d\star ζ) \\ &=(\mathrm dη,ζ)-(η,δζ) \end{aligned}

英語版に合わせて積分された内積を $(,)$ に修正しています。

積分の式は由来を説明しています。

次の記事に分かりやすく変形した式が載っています。

The Codifferential « The Unapologetic Mathematician

\begin{aligned} (⟨dη,ζ⟩-⟨η,δζ⟩)ω &=dη∧\star ζ-η∧\star δζ \\ &=dη∧\star ζ-(-1)^{k+1}η∧\star\star^{-1}d\star ζ \\ &=dη∧\star ζ-(-1)^{k+1}η∧d\star ζ \\ &=d(η∧\star ζ) \end{aligned}

※ 元記事では $(-1) ^ k$ となっていますが、間違いだと思われるため修正しています。

今回の記事の主な目的は、これらの定義をなるべく噛み砕いて、以下の関係を説明することです。

δ =(-1)^k\star^{-1}d\star =(-1)^{n(k-1)-1}s^{-1}\star d\star =\left\{\begin{array}{rc} -s^{-1}\star d\star &\text{偶数次元} \\ (-1)^ks^{-1}\star d\star &\text{奇数次元} \end{array}\right.
d(η∧\star ζ)=dη∧\star ζ-η∧\starδζ

微分

k-形式 $η$ の外微分

\begin{aligned} η&=f\,\underbrace{dx_{i_1}∧⋯∧dx_{x_{i_k}}}_{\text{k-形式}} \\ dη&=\underbrace{\underbrace{df}_{\text{1-形式}}∧\underbrace{dx_{i_1}∧⋯∧dx_{x_{i_k}}}_{\text{k-形式}}}_{\text{(k+1)-形式}} \end{aligned}

$d$ が $f$ に掛かり、基底とのウェッジ積により (k+1)-形式になります。

※ この手の式の基底の添え字 $i _ 1⋯i _ k$ は分かりにくいかもしれません。あまり添え字は意識しないで「$η$ は k-形式」のような構造だけに注目して動きを追うと良いでしょう。

交換

p-形式 $η$ と q-形式 $ζ$ とのウェッジ積 $η∧ζ$ の交換は符号に注意が必要です。

η∧ζ=(-1)^{pq}ζ∧η

導出

$η$ と $ζ$ の基底に重複があると $0$ になります。ここでは基底がすべて異なるとして $dx _ {i _ 1},⋯,dx _ {i _ {p+q}}$ とおきます。

\begin{aligned} η&=f\,\underbrace{dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_p}}_{\text{p-形式}} \\ ζ&=g\,\underbrace{dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}}_{\text{q-形式}} \end{aligned}

$f,g$ は 0-形式のため、自由に動かせます。基底は反交換性 $dx_i∧dx_j=-dx_j∧dx_i$ により交換した回数 $pq$ だけ符号が反転します。

\begin{aligned} η∧ζ &=(f\,dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_p})∧(g\,dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}) \\ &=\underbrace{(-1)^{pq}}_{\text{符号}}(g\,dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}})∧\underbrace{(f\,dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_p})}_{\text{移動}} \\ &=(-1)^{pq}ζ∧η \end{aligned}

多項式

多項式では交換は並行して行われるため、項数は符号の反転に影響しません。

\begin{aligned} &\underbrace{(f_1\,dx_{i_{11}}∧⋯∧dx_{i_{1p}}+⋯+f_r\,dx_{i_{r1}}∧⋯∧dx_{i_{rp}})}_{\text{p-形式が r 項}}∧\underbrace{(g\,dx_{j_1}∧⋯∧dx_{j_q})}_{\text{q-形式が 1 項}} \\ &=(f_1\,dx_{i_{11}}∧⋯∧dx_{i_{1p}})∧(g\,dx_{j_1}∧⋯∧dx_{j_q}) \\ &\quad+⋯+(f_r\,dx_{i_{r1}}∧⋯∧dx_{i_{rp}})∧(g\,dx_{j_1}∧⋯∧dx_{j_q}) \\ &=\underbrace{(-1)^{pq}}_{\text{符号}}(g\,dx_{j_1}∧⋯∧dx_{j_q})∧\underbrace{(f_1\,dx_{i_{11}}∧⋯∧dx_{i_{1p}})}_{\text{移動}} \\ &\quad+⋯+\underbrace{(-1)^{pq}}_{\text{符号}}(g\,dx_{j_1}∧⋯∧dx_{j_q})∧\underbrace{(f_r\,dx_{i_{r1}}∧⋯∧dx_{i_{rp}})}_{\text{移動}} \\ &=\underbrace{(-1)^{pq}(g\,dx_{j_1}∧⋯∧dx_{j_q})}_{\text{括り出し}} \\ &\quad∧(f_1\,dx_{i_{11}}∧⋯∧dx_{i_{1p}}+⋯+f_r\,dx_{i_{r1}}∧⋯∧dx_{i_{rp}}) \end{aligned}

別々に発生した $(-1)^{pq}$ が最後に括り出されているのに注目してください。q-形式が複数項でも同様です。

ライプニッツ

p-形式 $η$ と q-形式 $ζ$ とのウェッジ積 $η∧ζ$ の外微分 $d(η∧ζ)$ にもライプニッツ則はありますが、符号に注意が必要です。

d(η∧ζ)=dη∧ζ+(-1)^{p}η∧dζ

導出

ウェッジ積を計算します。

\begin{aligned} η∧ζ &=(f\,\underbrace{dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_p}}_{\text{p-形式}})∧(g\,\underbrace{dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}}_{\text{q-形式}}) \\ &=fg\,\underbrace{dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}}_{\text{(p+q)-形式}} \end{aligned}

※ このように基底をつなげたときに便利なので $η$ と $ζ$ の基底の添え字を一続きに $i _ 1⋯i _ {p+q}$ としています。

$fg$ はスカラーで、通常のライプニッツ則(積の微分)が適用されます。

d(fg)=(df)g+f(dg)=g\underbrace{df}_{\text{1-形式}}+f\underbrace{dg}_{\text{1-形式}}

よって外微分は:

\begin{aligned} d(η∧ζ) &=d(fg)∧dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p+q}} \\ &=(g\,df+f\,dg)∧dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p+q}} \\ &=g\,df∧(dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p}})∧(dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}) \\ &\quad+f\underbrace{dg}_{\text{1-形式}}∧\underbrace{(dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p}})}_{\text{p-形式}}∧(dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}) \\ &=(df∧dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p}})∧(\underbrace{g}_{\text{移動}}dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}) \\ &\quad+\underbrace{(-1)^p}_{\text{符号}}(f\,dx_{i_1}∧⋯∧dx_{i_{p}})∧(\underbrace{dg}_{\text{移動}}∧dx_{i_{p+1}}∧⋯∧dx_{i_{p+q}}) \\ &=dη∧ζ+(-1)^{p}η∧dζ \end{aligned}

$dg$ は 1-形式の多項式で、p-形式を飛び越すため交換は p 回です。

一般化ストークスの定理

wikipedia:ストークスの定理微分形式による一般化より:

\int_Mdω=\int_{∂M}ω.
この定理は「ある量(微分形式)の微分を特定の領域で積分した値は、境界で元の量を評価(積分)することによっても得られる」と解釈でき、微積分学の基本定理の自然な拡張になっている。

積分領域と、積分の対象となる微分形式は、次元とグレードが一致している必要があります。$M $ が n 次元の領域であれば $dω$ は n-形式です。$∂M $ は n-1 次元で $ω$ は (n-1)-形式です。

きちんと説明するとかなりの分量になってしまうため、今回は省略します。

詳細は id:tsujimotter さんの記事がとても分かりやすくお勧めです。

イメージとしては $dω$ の $d$ と $∂M $ の $∂$ が交換します。

無境界

n 次元の領域 $M $ に境界がなければ $∂M=0$ となります。積分領域がなければ、任意の (n-1)-形式 $ω$ に対して積分が 0 になります。

\int_{∂M}ω=0

一般化ストークスの定理より:

\int_Mdω=\int_{∂M}ω=0

例えばユークリッド空間 $\mathbb{R}^n$ は境界がないためこの条件に合致します。

ここではイメージに留めておきます。詳細は以下を参照してください。

森田茂之『微分形式の幾何学』岩波書店 P.116 より:

系3.7 $M $ を向き付けられた $n$ 次元 $C^∞$ 多様体で,境界を持たないものとする.このとき,$M $ 上のコンパクトな台を持つ任意の $n-1$ 形式 $ω$ に対し
\int_Mdω=0
となる.

微分

微分 $δ$ は外微分 $d$ の随伴として定義されます。

k-形式に対して:

δ:=(-1)^k\star^{-1}d\star

※ ホッジスター $\star$ やその逆写像 $\star^{-1}$ については前々回の記事を参照してください。特に、ホッジ双対とのウェッジ積で擬スカラーとしての内積を計算する方法は多用します。

α∧\star β=⟨α,β⟩ω

前提条件

先ほど一般化ストークスの定理で境界がない場合を取り上げましたが、余微分はそれに基づいています。

$M $ は n 次元で、$∂M $ で積分すると 0 になる (n-1)-形式 $α$ を考えます。

\int_Mdα=\int_{∂M}α=0

【注意】積分対象の $α$ や $dα$ が 0 というわけではなく、あくまで積分すると 0 になるということです。

ライプニッツ則で2つの内積に分割するため $α=η∧\star ζ$ とします。(詳細は後述)

\int_Md(η∧\star ζ)=\int_{∂M}(η∧\star ζ)=0

$η$ は k-形式とすれば、$\star ζ$ は (n-1-k)-形式です。$n-(n-1-k)$ より $ζ$ は (k+1)-形式となります。

【注意】$η∧\star ζ$ は内積になりそうな形ですが、$η$ と $ζ$ はグレードが異なるため内積にはなりません。もしグレードが同じなら内積になり、擬スカラーのため外微分すると 0 になりますが、ここではそうではありません。

Wikipediaには境界がある場合の条件も考慮されています。

$M $ は境界を持たないか、または、$η$ あるいは $\star ζ$ が境界値 0 を持っているときである。

微分はこれらの条件が成立しているという前提で定義されます。とりあえずそこは認めて先に進みます。

定義を追う

ここが今回の本題です。

$d(η∧\star ζ)$ を変形して、内積を作る過程で出て来たパターンを余微分として定義します。

ライプニッツ則を使います。

d(η∧\star ζ)=dη∧\star ζ+(-1)^kη∧d\star ζ

$(-1) ^ k$ の指数を $ζ$ のグレード $k+1$ に合わせるため符号に細工します。

=dη∧\star ζ\underbrace{-(-1)^{k+1}}_{\text{細工}}η∧d\star ζ

k-ベクトルの内積のパターン $α∧\starβ$ に持ち込むため、打ち消し合うホッジスターを挿入します。

=dη∧\star ζ-(-1)^{k+1}η∧\,\underbrace{\star\star^{-1}}_{\text{挿入}}\,d\star ζ \\

$(-1)^{k+1}\star^{-1}d\star$ を余微分 $δ$ とします。

\begin{aligned} &=dη∧\star ζ-η∧\star\underbrace{(-1)^{k+1}\star^{-1}d\star}_δ ζ \\ &=dη∧\star ζ-η∧\starδζ \end{aligned}

内積に書き換えます。$ω=dx _ 1∧⋯∧dx _ n$ は単位擬スカラーです。

=⟨dη,ζ⟩ω-⟨η,δζ⟩ω

まとめると、ライプニッツ則で2つの内積に分割して現れたパターンを余微分 $δ$ と定義します。

\begin{aligned} d(η∧\star ζ) &=dη∧\star ζ+(-1)^kη∧d\star ζ \\ &=dη∧\star ζ-η∧\star\underbrace{(-1)^{k+1}\star^{-1}d\star}_δ ζ \\ &=dη∧\star ζ-η∧\starδζ \\ &=⟨dη,ζ⟩ω-⟨η,δζ⟩ω \end{aligned}

グレードが1つ異なる k-形式 $η$ と (k+1)-形式 $ζ$ に特化したライプニッツ則だと言えます。

d(η∧\star ζ)=dη∧\star ζ-η∧\starδζ

ここでは (k+1)-形式 $ζ$ に対する余微分でしたが、定義した後は単独でも使えるため、一般化して k-形式に対して定義します。

δ:=(-1)^k\star^{-1}d\star

随伴

積分して 0 になるということが前提条件だったため、積分します。(「微分形式は積分されたがっている」)

\int_Md(η∧\star ζ) =\int_M⟨dη,ζ⟩ω-\int_M⟨η,δζ⟩ω =0

$⟨dη,ζ⟩ω$ と $⟨η,δζ⟩ω$ は積分すると等しくなるように狙って作られていることが分かります。

\int_M⟨dη,ζ⟩ω=\int_M⟨η,δζ⟩ω

積分された内積 $⟨,⟩ω$ を $(,)$ と略記すれば:

(dη,ζ)=(η,δζ)

これを左の $d$ と右の $δ$ が交換すると解釈します。このような関係が随伴です。この形を作るため、2つの内積に分割したわけです。

※ 類似の記法で一般化ストークスの定理も略記できます。

(M,dω)=(∂M,ω)

逆に見る

以上で余微分の導出の流れは一通り見ました。今度はその流れを逆に見てみます。

随伴 $(dη,ζ)=(η,δζ)$ を構成したいという動機から出発します。

積分すると等しくなることから:

\int_M\underbrace{⟨dη,ζ⟩ω}_{\text{k-形式の内積}}=\int_M\underbrace{⟨η,δζ⟩ω}_{\text{(k-1)-形式の内積}}

【注意】以前に登場した $η,ζ$ とはグレードが異なります。

左辺の $dη$ と $ζ$ は k-形式です。外微分はグレードが 1 増えるため $η$ は (k-1)-形式となります。

右辺の $η$ と $δζ$ は (k-1)-形式です。余微分はグレードが 1 減ることが分かります。

移項して積分をまとめます。

\int_M(\underbrace{⟨dη,ζ⟩ω-⟨η,δζ⟩ω}_{\text{積分の中身}})=0

積分の中身だけを計算します。(これが微分形式のコンセプトのようです)

⟨dη,ζ⟩ω-⟨η,δζ⟩ω=\underbrace{dη∧\star ζ}_{\text{第1項}}\,\underbrace{-η∧\starδζ}_{\text{第2項}}

右辺はライプニッツ則の類似になっています。右辺第1項 $dη∧\star ζ$ から予想される外微分 $d(η∧\star ζ)$ を計算します。

d(η∧\star ζ)=dη∧\star ζ+\underbrace{(-1)^{k-1}η∧d\star ζ}_{\text{第2項}}

前2式の右辺第2項を比較します。(逆方向から挟み撃ち)

-η∧\starδζ=(-1)^{k-1}η∧d\star ζ

右辺を左辺にすり合わせると、余微分 $δ$ の定義が得られます。

-η∧\star\underbrace{(-1)^k\star^{-1}d\star}_δ ζ

2回適用

微分を2回適用すると途中に $dd$ が現れて 0 になります。

\begin{aligned} δδ &=\underbrace{(-1)^{k-1}\star^{-1}d\star}_δ\,\underbrace{(-1)^k\star^{-1}d\star}_δ \\ &=\underbrace{(-1)^{2k-1}}_{-1}\star^{-1}d\,\underbrace{\star\star^{-1}}_1\,d\star \\ &=-\star^{-1}\underbrace{dd}_0\star \\ &=0 \end{aligned}

※ $2k$ は偶数のため:$(-1)^{2k-1}=(-1)^{-1}=-1$

式変形

実際の計算に使うため、余微分をホッジスターの逆写像を使わない形に変形します。

ホッジスターの逆写像より:

\star^{-1} =(-1)^{k(n-k)}s^{-1}\star =\left\{\begin{array}{rc} s^{-1}\star &\text{奇数次元} \\ (-1)^ks^{-1}\star &\text{偶数次元} \end{array}\right.

微分の定義を末尾から見ると $\star^{-1}$ の前に $\star$ と $d$ が適用されています。

δ:=(-1)^k\star^{-1}d\star

それによるグレードの変化は:

\begin{aligned} \star&:\ k\,→\,n-k \\ d&:\ n-k\,→\,n-k+1 \end{aligned}

これに適用するため $k\,→\,n-k+1$ として $\star^{-1}$ の $(-1)$ の指数部を計算します。

(n-k+1)(n-(n-k+1))=(n+1)(k-1)-k(k-1)

$k(k - 1)$ は偶数なので除去すれば:

(n+1)(k-1)=nk-n+k-1

よって (n-k+1)-形式へのホッジスターの逆写像は:

\star^{-1} =(-1)^{k(n-k)}s^{-1}\star \xrightarrow{k\,→\,n-k+1} (-1)^{nk-n+k-1}s^{-1}\star

これを余微分の定義に代入して:

\begin{aligned} δ &=(-1)^k(-1)^{nk-n+k-1}s^{-1}\star d\star \\ &=(-1)^{nk-n+2k-1}s^{-1}\star d\star \end{aligned}

$2k$ は偶数なので除去すれば:

δ=(-1)^{n(k-1)-1}s^{-1}\star d\star

まとめると:

δ=(-1)^k\star^{-1}d\star=(-1)^{n(k-1)-1}s^{-1}\star d\star

$(-1)$ の指数部は Wikipedia の日本語版 $nk+n+1$ とも英語版 $n(k - 1)+1$ とも違います。しかしこれら3つの偶奇は同じで符号も同じになるため、どれも正解だと考えられます。

次元

ホッジスターの2回適用と同様に、次元で場合分けすれば単純化できます。

偶数次元($n$ が偶数)では $n(k - 1)$ が常に偶数になるため、$n(k - 1)-1$ は常に奇数になります。

奇数次元($n$ が奇数)では $n(k - 1)$ の偶奇は $k$ と逆になるため、$n(k - 1)-1$ の偶奇は $k$ と一致します。

δ =(-1)^k\star^{-1}d\star =(-1)^{n(k-1)-1}s^{-1}\star d\star =\left\{\begin{array}{rc} -s^{-1}\star d\star &\text{偶数次元} \\ (-1)^ks^{-1}\star d\star &\text{奇数次元} \end{array}\right.

計算例

定義が得られたので使ってみます。

偏微分を添え字で略記します。

f_x:=\frac{∂f}{∂x}

ユークリッド空間 3次元の 1-形式 $α$ の外微分と余微分を計算します。

奇数次元で $k=1,\ s=|dx∧dy∧dz|^2=1$ より:

\begin{aligned} δ&=(-1)^ks^{-1}\star d\star=-\star d\star \\ α&=X\,dx+Y\,dy+Z\,dz \\ dα &=(\cancel{X_x\,dx}+X_y\,dy+X_z\,dz)∧dx \\ &\quad+(Y_x\,dx+\cancel{Y_y\,dy}+Y_z\,dz)∧dy \\ &\quad+(Z_x\,dx+Z_y\,dy+\cancel{Z_z\,dz})∧dz \\ &=(Y_x-X_y)\,dx∧dy+(Z_y-Y_z)\,dy∧dz+(X_z-Z_x)\,dz∧dx \\ δα &=-\star d\star(X\,dx+Y\,dy+Z\,dz) \\ &=-\star d(X\,dy∧dz+Y\,dz∧dx+Z\,dx∧dy) \\ &=-\star\{(X_x\,dx+\cancel{X_y\,dy}+\cancel{X_z\,dz})∧dy∧dz \\ &\qquad\quad+(\cancel{Y_x\,dx}+Y_y\,dy+\cancel{Y_z\,dz})∧dz∧dx \\ &\qquad\quad+(\cancel{Z_x\,dx}+\cancel{Z_y\,dy}+Z_z\,dz)∧dx∧dy\} \\ &=-\star\{(X_x+Y_y+Z_z)\,dx∧dy∧dz\} \\ &=-(X_x+Y_y+Z_z) \end{aligned}

$dα$ で斜線を引いて消えた項が $δα$ で残ります。つまり項の利用は補完し合っています。

ベクトル解析の用語を使えば、$dα$ は rot、$δα$ は -div に相当します。

微分と余微分ではグレードの変化が逆になります。

  • 微分:k-形式 → (k+1)-形式
  • 微分:k-形式 → (k-1)-形式

今回は余微分の定義を追うのが目的だったので、性質については次の機会に回したいと思います。