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調和微分形式とディラック作用素

複素解析の正則関数に対応する調和微分形式をディラック作用素で読み解きます。

シリーズの記事です。

  1. 調和微分形式とディラック作用素 ← この記事
  2. 調和微分形式とスカラーポテンシャル

ディラック作用素や余微分は以下の記事を参照してください。

目次

概要

Wikipedia から引用しつつ読み進めます。

調和微分形式とは数学において曲面上の実 1-形式 $ω$ として、$ω$ とその共役 1-形式 $ω*$ 両方が閉形式のことをいう。

$ω$ は複素解析での正則関数に相当します。以下では正則関数が成り立つ領域に限定して、領域に関する議論は省略します。

共役 1-形式はホッジ双対 $\starω$ に相当します。👉詳細は後述

閉形式は外微分で 0 になることを意味します。

dω=0\,,\quad d\starω=0

ユークリッド空間 2次元に対する余微分は以下の通りです。👉参考

δ=-\star d\star

$d\starω=0$ より $δω=0$ です。余微分で 0 になるものを余閉形式と呼びます。

閉形式かつ余閉形式より、ディラック作用素 $D=d-δ$ に対しても 0 となります。これはコーシー・リーマンの方程式に相当します。

Dω=dω-δω=0

つまり $Dω=0$ となる $ω$ が調和微分形式です。

ポアンカレの補題より閉形式 $dω=0$ ならば完全形式 $ω=df$、つまり外微分によって $ω$ を生成するスカラーポテンシャル $f$ が存在します。

スカラー(0-形式)に対するラプラシアンは以下の通りです。

Δ=D^2=(d-δ)^2=\underbrace{d^2}_0-\underbrace{dδ}_0-δd+\underbrace{δ^2}_0=-δd

$f$ は調和関数となります。

Δf=-δdf=-δω=0

ここまでを図にまとめます。この図は元ニート2号さんの発案によります。

f:id:n7shi:20180812013910p:plain

調和微分形式 $ω$ によって表される2次元ベクトル場には、発散(div)と回転(rot)がないことを表します。👉詳細は後述

解説

2-次元実解析多様体の上で定義された実 1-形式の場合を考える。さらに複素微分形式の実部となる実 1-形式を考える。$ω=A\,dx+B\,dy$ とし、形式的に 共役 1-形式を $ω^ * =A\,dy-B\,dx$ と定義する。

共役 1-形式はホッジ双対です。👉参考

\star ω =\star(A\,dx+B\,dy) =A\,dy-B\,dx

ホッジスターは複素数での $i$ を掛ける操作に相当します。

i(A+iB)=iA-B

【注意】共役という呼び方で紛らわしいですが、対応するのは複素共役ではありません。

(A+iB)^*=A-iB

なお、$A,B$ は実調和関数です。

動機

調和微分形式は明らかに複素解析に関係している.複素数 $z$ を実部と虚部に分けて、それぞれを $x$ と $y$ とし、$z = x + iy$ とする.

調和微分形式 $ω=A\,dx+B\,dy$ は複素正則関数 $A-iB$ に対応します。

$A-iB$ の原始関数を $W$ とすれば、微分積分学の基本定理により微分で $A-iB$ に戻ります。

\begin{aligned} W&=\int(A-iB)dz \\ dW&=(A-iB)dz \\ \frac{dW}{dz}&=A-iB \end{aligned}

複素解析の観点から、$ω+iω^ * =(A-iB)(dx+i\,dy)$ となり、従って $dz$ がゼロに近付くとき商 $(ω+iω^ * )/dz$ は極限を取る。言い換えると、$ω^ * $ は、微分(解析性)の概念に関連している。

原始関数の全微分 $dW$ が複素微分形式 $ω+iω^ * $(実部 $ω$、虚部 $ω^ * $)です。計算で確認します。

\begin{aligned} dz&=d(x+iy)=dx+i\,dy \\ ω+iω^* &=(A\,dx+B\,dy)+i(A\,dy-B\,dx) \\ &=(A-iB)dx+(B+iA)dy \\ &=(A-iB)dx+(A-iB)i\,dy \\ &=(A-iB)(dx+i\,dy) \\ &=(A-iB)dz \\ \frac{ω+iω^*}{dz} &=A-iB \end{aligned}

共役 1-形式で見たように ${}^ * $ は $i$ を掛けることに相当するため、複素微分形式では $ω^ * $ が虚部として現れます。これは実部と虚部が独立ではないことを表しますが、実際、正則関数の実部から虚部は定数の任意性を除いて一意に決まります。

もうひとつの概念である虚数単位は、$(ω^ * )^ * =-ω$ である(まさに $i^ 2=-1$ と同じである)。

こちらも ${}^ * $ は $i$ を掛けることに相当することから理解できます。

\begin{aligned} (ω^*)^* &=(A\,dy-B\,dx)^* \\ &=-A\,dx-B\,dy \\ &=-ω \end{aligned}

与えられた函数 $f$ に対し、$ω=df$ とする。つまり

ω=\left(\frac{∂f}{∂x}\right)dx+\left(\frac{∂f}{∂y}\right)dy

ここに $∂$ は偏微分を表す。

ポアンカレ補題により、$ω$ をスカラーポテンシャル $f$ の外微分で表します。

すると、

(df)^*=\left(\frac{∂f}{∂x}\right)dy-\left(\frac{∂f}{∂y}\right)dx

となる。

$(df)^ * =ω^ * $ です。

ここで注意することは $d(df)^ * $ はいつもゼロとは限らないことで、実際、

d(df)^*=Δf\,dx\,dy

であり、ここに

Δf=\frac{∂^ 2f}{∂x^ 2}+\frac{∂^ 2f}{∂y^ 2}

が示される。

$d(df)^ * =d\star df$ です。

微分は擬スカラースカラーに変換する操作を含みます。

-δdf=\star d\star df=\star(Δf\,dx\,dy)=Δf

コーシー・リーマンの方程式

上で見たように、$ω$ と $ω^ * $ がともに閉形式のときに、1-形式 $ω$ を 調和的 という。このことは $∂A/∂y=∂B/∂x$ ($ω$ が閉形式のとき) でかつ $∂B/∂y=-∂A/∂x$ ($ω^ * $ が閉形式のとき) であることを意味する。これらは、$A-iB$ のコーシー・リーマンの方程式という。普通、これらは、$u(x,y)+iv(x,y)$ の項で表すと、

\frac{∂u}{∂x}=\frac{∂v}{∂y}\ \ \ \ \frac{∂v}{∂x}=-\frac{∂u}{∂y}

となる。

複素解析では実部と虚部を構成する $u,v$ が調和関数となります。そのアナロジーで $ω$ を調和的と呼んでいるようです。スカラーポテンシャル $f$ も調和関数ですが、それとは別です。

$A\,dx+B\,dy$ が $A-iB$ に対応することから、コーシー・リーマンの方程式で $u=A,\ v=-B$ とします。

\frac{∂A}{∂x}=-\frac{∂B}{∂y}\ ,\quad-\frac{∂B}{∂x}=-\frac{∂A}{∂y}

説明文中の $A,B$ で書かれた式と一致します。

\frac{∂A}{∂y}=\frac{∂B}{∂x}\ ,\quad\frac{∂B}{∂y}=-\frac{∂A}{∂x}

$Dω=0$ によってまとめて求められます。

\begin{aligned} Dω &=D(A\,dx+B\,dy) \\ &=\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}\right)(A\,dx+B\,dy) \\ &=\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}\right)A\,dx+\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}\right)B\,dy \\ &=\frac{∂A}{∂x}+\frac{∂A}{∂y}dy\,dx+\frac{∂B}{∂x}dx\,dy+\frac{∂B}{∂y} \\ &=\left(\frac{∂A}{∂x}+\frac{∂B}{∂y}\right)+\left(-\frac{∂A}{∂y}+\frac{∂B}{∂x}\right)dx\,dy \\ &=0 \end{aligned}
∴\ \underbrace{\frac{∂A}{∂x}+\frac{∂B}{∂y}}_{\mathrm{div}}=\underbrace{\frac{∂B}{∂x}-\frac{∂A}{∂y}}_{\mathrm{rot}}=0

得られた条件は2次元での発散(div)と回転(rot)がないことを表します。👉参考

同様の手法は複素解析でも用いられます。

\begin{aligned} &\left(\frac∂{∂x}+i\frac∂{∂y}\right)(A-iB) \\ &=\left(\frac∂{∂x}+i\frac∂{∂y}\right)A-\left(\frac∂{∂x}+i\frac∂{∂y}\right)iB \\ &=\frac{∂A}{∂x}+i\frac{∂A}{∂y}-i\frac{∂B}{∂x}+\frac{∂B}{∂y} \\ &=\left(\frac{∂A}{∂x}+\frac{∂B}{∂y}\right)+i\left(\frac{∂A}{∂y}-\frac{∂B}{∂x}\right) \\ &=0 \end{aligned}

結果

  • 調和微分 (1-形式) は正確に(解析的)複素微分形式の実部に一致する。これを証明するためには、$u+iv$ が、$x+iy$ で局所的に解析函数であるときに、コーシー・リーマンの方程式を満たすことを示せばよい。もちろん、解析函数 $w(z)=u+iv$ は、何らか(すなわち $\displaystyle \int w(z)\,dz$ )の局所での微分である。

$w(z)$ の原始関数の全微分は複素微分形式 $ω+iω^ * $ となり、その実部 $ω$ は調和微分形式となります。

完全形式 $ω=df$ ということです。

  • $ω$ が調和微分形式であれば、$ω^ * $ もまた調和微分形式である。

実部だけでなく、虚部も調和微分形式としての性質を満たします。

\begin{aligned} Dω^* &=D(-B\,dx+A\,dy) \\ &=\left(-\frac{∂B}{∂x}+\frac{∂A}{∂y}\right)+\left(\frac{∂B}{∂y}+\frac{∂A}{∂x}\right)dx\,dy \\ &=0 \end{aligned}
∵\ \frac{∂A}{∂x}+\frac{∂B}{∂y}=\frac{∂B}{∂x}-\frac{∂A}{∂y}=0