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行列表現と外積と行列式

逆行列から行列式を抽出して、行列表現や外積で解釈します。

『行列と代数系』シリーズの記事です。

  1. 実二次正方行列の初歩
  2. 実二次正方行列と代数系
    1. 冪零行列と二重数
    2. 三種類の二元数
    3. 分解型四元数と同型対応
    4. 分解型四元数と幾何代数
    5. 行列表現と外積行列式 ← この記事
    6. 分解型複素数と固有値

目次

実数

単位行列は掛けても変化しない性質が $1$ に似ていることから、実数は単位行列の定数倍として行列で表現できます。

a\ ↦\ aI=\begin{pmatrix}a&0\\0&a\end{pmatrix}

複素数などの行列表現で既に使っていますが、念のため明確にしました。

行列式

逆行列の分母に $ad-bc$ が表れます。この意味を考えます。

\tag{1} \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1} =\frac1{\textcolor{red}{ad-bc}} \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}

実数の行列表現では、逆行列は逆数に対応します。

\tag{2} \begin{aligned} a^{-1}&=\frac1a \\ \begin{pmatrix}a&0\\0&a\end{pmatrix}^{-1} &=\frac1{\textcolor{red}{a^2}}\begin{pmatrix}a&0\\0&a\end{pmatrix} =\frac1aI \end{aligned}

$(1)$ と $(2)$ の赤字部分より、行列の大きさを示す量があって、その2乗が $ad-bc$ ではないかと推測できます。

実際、複素数の行列表現の逆行列では絶対値の2乗が分母に現れます。(赤字部分)

\begin{aligned} |a+bi|^2&=(a+bi)(a-bi)=a^2+b^2 \\ (a+bi)^{-1}&=\frac{a-bi}{|a+bi|^2} \\ \begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}^{-1} &=\frac1{\textcolor{red}{|a+bi|^2}}\begin{pmatrix}a&b\\-b&a\end{pmatrix} \end{aligned}

複素数の逆数で分子にある $a-bi$ は $a+bi$ と同じ大きさ(絶対値)を持っているため、分母が2乗のままになっています。行列でも事情が同じだと考えれば、逆行列に大きさの2乗が表れていることは納得できます。

このように $ad-bc$ は行列の大きさ(の2乗)を表していると解釈できます。これを行列式と呼びます。

※ 実際には大きさの2乗というよりも、大きさが二次の量として表現されています。具体的には面積と関連付けられます。(詳細は後述

行列式にはいくつか表記法があります。$\det$ による方法、行列を絶対値の記号で囲む方法、絶対値の中の行列の括弧を省略する方法です。どれを使うかは好みですが、どれも使われるため知っておく必要があります。

行列式
\det\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} =\left|\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\right| =\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} =ad-bc

行列式は数値を表すため、分数の分母に書くこともできますが、冪乗表記の方が場所を取りません。

\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1} =\frac1{\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix}} \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix} =\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}

絶対値の2乗

表現行列の行列式は、表現された代数の絶対値の2乗と等しいです。

\begin{alignedat}{4} &\text{実数}&&|a|^2&&=\begin{vmatrix}a&0\\0&a\end{vmatrix}&&=a^2 \\ &\text{二重数}&&|a+bε|^2&&=\begin{vmatrix}a&0\\b&a\end{vmatrix}&&=a^2 \\ &\text{複素数}&&|a+bi|^2&&=\begin{vmatrix}a&-b\\b&a\end{vmatrix}&&=a^2+b^2 \\ &\text{分解型複素数}&&|a+bj|^2&&=\begin{vmatrix}a&b\\b&a\end{vmatrix}&&=a^2-b^2 \\ &\text{分解型四元数}\quad&&|a+bi+cj+dk|^2&&=\begin{vmatrix}a-d&-b+c\\b+c&a+d\end{vmatrix}&&=a^2+b^2-c^2-d^2 \end{alignedat}

分解型複素数や分解型四元数は絶対値の2乗が負になることがあります。空間計量という概念と関係がありますが、いずれ機会を改めて取り上げる予定です。

また、二重数の $ε$ は無限小量のため絶対値に反映されないと解釈できます。

外積

行列に対応する一次変数変換を示します。

\begin{cases} x=ax'+by' \\ y=cx'+dy' \end{cases} \quad \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}

この連立方程式で横方向の単位ベクトルと縦方向の単位ベクトルを変換します。

\begin{aligned} &横方向&(x',y')&=(1,0)&&→&(x,y)&=(a,c) \\ &縦方向&(x',y')&=(0,1)&&→&(x,y)&=(b,d) \end{aligned}
f:id:n7shi:20191128014041p:plain

変換後の2本のベクトルが張る平行四辺形の面積を外積で計算すると、$i$ の係数から行列式が得られます。行列を左右に分割してベクトルを2本取り出していると解釈できます。

\det\left(\begin{array}{c|c}a&b\\c&d\end{array}\right) \ ↦\ (ak+cj)∧(bk+dj)=(ad-bc)i
f:id:n7shi:20191216160737p:plain

つまり行列式は行列の成分が表す2本のベクトルで張られる平行四辺形の向き付き面積で、これは変換によって面積が何倍になるかを示します。

※ 面積の倍率を計算するのに、単位ベクトルが張る単位面積を基準にしています。変換前が単位面積でなくても $0$ でなければ基準とすることは可能ですが、基準を変えても倍率は変わらないため、計算が簡単な単位面積を基準にしました。

行列式外積と関連付けることで、行列式の性質を外積の性質から探れます。

※ 特に行列のサイズが大きくなったときに計算方法を工夫するのに役立ちます(余因子展開)。いずれ機会を改めて取り上げる予定です。

行列式の性質

いくつか行列式の性質を見ます。

成分の交換

$ad-bc$ より、$a$ と $d$ や、$b$ と $c$ の位置を交換しても行列式には影響しません。

\tag{3} \begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}\textcolor{red}{d}&b\\c&\textcolor{red}{a}\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}a&\textcolor{red}{c}\\\textcolor{red}{b}&d\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}\textcolor{red}{d}&\textcolor{red}{c}\\\textcolor{red}{b}&\textcolor{red}{a}\end{vmatrix}

$b$ と $c$ の交換より、ベクトルを取り出すのに行列を上下に分割しても行列式が変わらないことが分かります。

\begin{aligned} \det\left(\begin{array}{c|c}a&b\\c&d\end{array}\right) &=\det\left(\begin{array}{cc}a&b\\\hline c&d\end{array}\right) \\ (ak+cj)∧(bk+dj)&=(ak+bj)∧(ck+dj) \end{aligned}

ベクトルの交換

ベクトルとして区切った単位で交換すれば、行列式は符号が反転します。これは外積の反交換性に対応します。

\begin{aligned} \det\left(\begin{array}{c|c}a&b\\c&d\end{array}\right) &=-\det\left(\begin{array}{c|c}b&a\\d&c\end{array}\right) \\ (ak+cj)∧(bk+dj)&=-(bk+dj)∧(ak+cj) \end{aligned}
\begin{aligned} \det\left(\begin{array}{cc}a&b\\\hline c&d\end{array}\right) &=-\det\left(\begin{array}{cc}c&d\\\hline a&b\end{array}\right) \\ (ak+bj)∧(ck+dj)&=-(ck+dj)∧(ak+bj) \end{aligned}

$(3)$ の右辺は、左右を交換してから上下を交換することに対応します。

\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} =-\begin{vmatrix}b&a\\d&c\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}d&c\\b&a\end{vmatrix}

※ 上下→左右でも同様です。

\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} =-\begin{vmatrix}c&d\\a&b\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}d&c\\b&a\end{vmatrix}

行列の定数倍

行列を定数倍すれば、行列式は定数の2乗倍となります。

\begin{aligned} \left|n\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\right| &=\begin{vmatrix}na&nb\\nc&nd\end{vmatrix} \\ &=n^2(ad-bc) \\ &=n^2\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} \end{aligned}

共通因子を括り出す際に2乗されているのに注意します。ベクトルが表す平行四辺形の1辺を定数倍すれば、外積が表す面積が定数の2乗倍となることに対応します。

\begin{aligned} \begin{vmatrix}na&nb\\nc&nd\end{vmatrix} &=n^2\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} \\ n(ak+cj)∧n(bk+dj)&=n^2\{(ak+cj)∧(bk+dj)\} \end{aligned}

外積は積の一種のため、実数定数 $n$ は通常の積と同様に扱えます。分かりにくければ、次の計算(通常の積)と比較してみてください。

\{n(ak+cj)\}\{n(bk+dj)\}=n^2\{(ak+cj)(bk+dj)\}

$n=-1$ より、行列全体に掛かる符号が行列式には影響しないことが分かります。

\begin{vmatrix}-a&-b\\-c&-d\end{vmatrix} =\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix}

ベクトルの定数倍

行列を左右または上下に区切ってベクトルの組と見なしたとき、個々のベクトルの定数倍は行列式の外に括り出せます。

\begin{aligned} \begin{vmatrix}na&mb\\nc&md\end{vmatrix} &=nm\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} \\ n(ak+cj)∧m(bk+dj)&=nm\{(ak+cj)∧(bk+dj)\} \end{aligned}
\begin{aligned} \begin{vmatrix}na&nb\\mc&md\end{vmatrix} &=nm\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} \\ n(ak+bj)∧m(ck+dj)&=nm\{(ak+bj)∧(ck+dj)\} \end{aligned}

※ $n=m $ のケースが行列全体の定数倍に当たります。

具体的な数値で行列式を計算する際に利用できます。

\begin{vmatrix}\frac13&\frac23\\6&18\end{vmatrix} =2\begin{vmatrix}1&2\\1&3\end{vmatrix} =2

逆行列

逆行列行列式は、元の行列の行列式の逆数となります。

\begin{aligned} \left|\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1}\right| &=\left|\frac1{ad-bc}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}\right| \\ &=\frac1{(ad-bc)^2}\begin{vmatrix}d&-b\\-c&a\end{vmatrix} \\ &=\frac1{ad-bc} \\ &=\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix}^{-1} \end{aligned}

行列式が行列の大きさで、逆行列が逆数に相当するという解釈に合います。

また、変換によって拡大・縮小された平行四辺形の面積が、逆変換によって元に戻ることに対応します。

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※ 変換によって平行四辺形が潰れて面積が $0$ になった場合、掛け算によって面積を元に戻せなくなります。これは行列式が $0$ のときに逆行列が存在しないことに対応します。

行列の積の逆行列には、分母に個々の行列式の積が現れます。(赤字部分)

\begin{aligned} \left\{ \begin{pmatrix}a &b \\c &d \end{pmatrix} \begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix} \right\}^{-1} &=\begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}a &b \\c &d \end{pmatrix}^{-1} \\ &=\frac1{\textcolor{red}{(a'd'-b'c')(ad-bc)}} \begin{pmatrix}d'&-b'\\-c'&a'\end{pmatrix} \begin{pmatrix}d &-b \\-c &a \end{pmatrix} \end{aligned}

このことから、行列の積の行列式は、個々の行列式の積と等しいことが分かります。

\left| \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix} \right| =\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} \begin{vmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{vmatrix}

念のため確認します。

\begin{aligned} \left| \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix} \right| &=\begin{vmatrix}aa'+bc'&ab'+bd'\\ca'+dc'&cb'+dd'\end{vmatrix} \\ &=(aa'+bc')(cb'+dd')-(ab'+bd')(ca'+dc') \\ &=aa'cb'+aa'dd'+bc'cb'+bc'dd' \\ &\quad-ab'ca'-ab'dc'-bd'ca'-bd'dc' \\ &=aa'dd'+bc'cb'-ab'dc'-bd'ca' \\ &=ad(a'd'-b'c')-bc(a'd'-b'c') \\ &=(ad-bc)(a'd'-b'c') \\ \begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix} \begin{vmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{vmatrix} &=(ad-bc)(a'd'-b'c') \end{aligned}

個々に行列式を求めて積を計算した方が簡単です。

行列式は大きさに相当するため、個々の大きさを掛けられると解釈できます。

また、変換によって拡大・縮小された平行四辺形の面積を、更に別の変換で拡大・縮小することに対応します。これによって個々の倍率が掛け合わされることが理解できます。

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冪乗

逆行列と積の結果から、行列の冪乗は行列式の側に移せることが分かります。

\left|\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^n\right| =\begin{vmatrix}a&b\\c&d\end{vmatrix}^n

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