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全微分と接線

微分により接線が得られることを簡単にまとめます。

シリーズの記事です。

  1. 全微分
  2. 微分と接線 ← この記事
  3. 連鎖律
  4. 積の微分

目次

導関数

2次元で説明します。

放物線 $y=x²$ を考えます。 導関数 $y'=2x$ は接線の傾きです。 放物線上の点 $(x,x²)$ を接点として1つ取り出して固定します。 接点を原点とした座標系で接線を考えます。

※ 接線の空間には接空間・余接空間の区別があります。余接空間については後述します。

導関数を式変形します。

y'=2x
\frac{dy}{dx}=2x
dy=2x\,dx

※ $dx$ や $dy$ は2文字で1つの変数を表していると解釈します。$d$ と $x$ に分けて考えません。$Δx$ などと同様です。

$x$ は固定されているため定数で、$dx,dy$ は接点を原点とした座標だと考えれば $dy=2x\,dx$ は接線の方程式となります。

f:id:n7shi:20170928100952p:plain

※ $dx,dy$ を基底ベクトルとして張られる接線の空間を余接空間と呼びます。接線は各点各点にあるため、放物線全体を考えると無限個の余接空間が束のようになっており、これを余接束(余接バンドル)と呼びます。

式の見方

$dy=2x\,dx$ が接線の方程式だと言われてもピンと来ないのではないでしょうか。

分かりやすくするため文字を置き替えてみます。

\begin{aligned} 2x\ &→\ a\\ dx\ &→\ x\\ dy\ &→\ y\\ \end{aligned}

接線の方程式を置き替えます。

\underbrace{dy}_y=\underbrace{2x}_a\underbrace{dx}_x\ →\ y=ax

こうすれば直線の方程式に見えて来るのではないでしょうか。

※ これは式の見方を伝えるための便宜的説明です。微分方程式の解法ではありません。

微分

元の放物線を陰関数表示($x$ と $y$ を同じ辺に移項)します。

x²-y=0

左辺を関数 $f$ で表します。

f(x,y)=x²-y

微分を求めます。

df=\frac{∂f}{∂x}dx+\frac{∂f}{∂y}dy=2x\,dx-dy

$右辺=0$ とすれば陰関数表示した接線となります。

2x\,dx-dy=0

このように全微分により接線が得られます。

3次元図形

3次元では平面の式が得られるため接平面となります。

球の例を示します。

x^2+y^2+z^2=1
f(x,y,z)=x^2+y^2+z^2-1
df=2x\,dx+2y\,dy+2z\,dz

$右辺=0$ とすれば陰関数表示した接平面となります。

2x\,dx+2y\,dy+2z\,dz=0
x\,dx+y\,dy+z\,dz=0

3次元図形と2次元の場とは区別しないと混乱を招きます。

2次元上の関数 $f(x,y)$ を考えます。 これは2次元上の各点が何らかの値を持つことを表しスカラー場と呼びます。 簡単な例では平面に描かれた地図の位置が $(x,y)$ で、 その地点の標高が $f(x,y)$ に相当します。

※ 3次元に描けますが、これはあくまで2次元のスカラー場です。先ほど例に出した球とは扱いが異なります。

微分と勾配を比較します。

df=\frac{∂f}{∂x}dx+\frac{∂f}{∂y}dy
\mathrm{grad}f=\left(\frac{∂f}{∂x}, \frac{∂f}{∂y}\right)

$dx,dy$ を余接空間の基底ベクトルとして、$dx,dy$ の係数をベクトルの成分だと見なせば、$df$ と $\mathrm{grad}f$ は同一視できます。この考えを拡張すれば微分形式につながります。

微分形式の説明は省略します。

$f$ は2次元平面上のスカラー場なので、$\mathrm{grad}f$ も2次元ベクトルです。 地図のイメージで言えば、ある地点において最も上り勾配がきつくなる方向を表しています。 2次元平面上の各点にベクトルを持つためベクトル場と呼びます。

微分と $\mathrm{grad}$ を同一視すれば、スカラー場の全微分によりベクトル場が得られると解釈できます。

※ 逆に考えて、ベクトル場があればスカラー場が存在する可能性があります。それを判定するのがポアンカレの補題です。

Wikipedia:勾配 (ベクトル解析)からベクトル場の図を引用します。

f:id:n7shi:20170927123834p:plain

※ 上の曲面がスカラー場、下の矢印が描かれている平面がベクトル場に相当します。

これまで出て来た例との違いに注意してください。

  • 2次元図形と異なり $f(x,y)=0$ とは限りません。
  • 3次元図形と異なり全微分に $dz$ は現れません。$df$ は2次元のため $df=0$ は接平面ではありません。
  • $f(x,y)=h$ とすれば標高 $h$ の等高線が得られます。$df=0$ は等高線への接線を表します。

まとめると $f$ が表すものによって全微分の意味合いが変わって来ます。

$f$ の表式 意味 $df$ の表式 意味
$f(x,y)=0$ 2次元図形 $df=0$ 接線
$f(x,y)$ スカラー $df$ ベクトル場
$f(x,y)=h$ 等高線 $df=0$ 等高線への接線
$f(x,y,z)=0$ 3次元図形 $df=0$ 接平面

※ 3次元のスカラー場も考えられますが、ここでは省略します。

法線ベクトル

陰関数表示された接線の係数だけを取り出せば法線ベクトルが得られます。

a\,dx+b\,dy=0\ →\ (a,b)

これが全微分と $\mathrm{grad}$ が法線ベクトルを表すこととの関係です。

経緯

Twitter上でのやりとりを基にしています。

※ 一部不正確な記述があります。

参考

Markdownでの数式の記述方法を参考にさせていただきました。