ラテン語の音節とアクセントについて、あまり厳密さに拘らないで実用性重視で大雑把に勘所を説明します。発音については既知として説明しません。
音節
発音の単位です。日本語の仮名と同じような単位です。
- casa → ca|sa(カ|サ)
長母音は1音節です。
- amāre → a|mā|re(ア|マー|レ)
※ 日本語の感覚だと音引き「ー」を独立させて「ア|マ|ー|レ」と4分割したくなります。そのような単位は「モーラ(拍)」と呼ばれ、音節とは別の基準です。
二重母音
連続した短母音は、後ろの母音が弱化して二重母音として一体化することがあります。後ろの弱化した母音は長母音における音引き「ー」のようなもののため、二重母音は全体で1つの長い母音として扱います。
二重母音となる組み合わせは次の6種類だけです。ae, oe は元々 ai, oi だったため、後ろの弱化した母音は半母音 /j,w/ だと解釈できます。
- ae, oe, ei, ui, au, eu
/aj, oj, ej, uj, aw, ew/
※ 二重母音となる組み合わせを全部覚えなくても、後ろが半母音 /j,w/ になるかで(大抵は)判定できます。
実用的には「大抵の母音連続は二重母音で、例外として後の母音が変化語尾であれば分離する」と考えておけば良いでしょう。
- neuter → neu|ter(二重母音)
- deus → de|us(変化語尾us)
- Jūlius → Jū|li|us(変化語尾us)
- Italia → I|ta|li|a(変化語尾a)
※ 音節が常に変化語尾の前で切れるわけではありません。音節と変化語尾が関係するのは、母音が連続して後ろの母音だけが変化語尾に属するケースだけです(上の例)。母音連続ではなく変化語尾の前で切れない例を示します。
- amīca → a|mī|ca(変化語尾a)
子音
音節には必ず母音が含まれます。言い換えると、子音だけの音節はありません。末尾(余り)の子音は前の母音にくっつけます。
- amīcus → a|mī|cus
語中で連続した子音は最初の子音の後で区切ります。
- campus → cam|pus
子音+r/lは1つの塊と見なして、間では区切りません。ただしll,rrのような同じ音の連続は区切れます。
- librum → li|brum
- terra → ter|ra
※ r,lを音声学では流音と分類します。日本語ではr,lを区別しませんが、流音が1つしかない(ラ行)と言えます。
練習 1
音節に区切ってください。(ガリア戦記・冒頭)
Gallia est omnis dīvīsa in partēs trēs, quārum ūnam incolunt Belgae, aliam Aquitānī, tertiam, quī ipsōrum linguā Celtae, nostrā Gallī appellantur.
【注】quのuは子音扱いで/kw/となり、qとuは分割しないで一塊として扱います。guは母音が後続するときのみ/gw/として扱います。
音節の長さ
母音で終わっている音節を開音節、子音で終わっている音節を閉音節と呼びます。
短母音の開音節は短い音節(◡)、それ以外は長い音節(-)です。
- marium→ ma|ri|um
短母音の開音節を基準に見るため、閉音節は末子音が含まれている分だけ長いです。長母音はそれ自体が既に長いです。子音をC、母音をUで代表して示します。母音から後ろだけに注目するため、母音の前の子音は省略します。
- -Ŭ(短い) ← 基準
- -ŬC(長い)
- -Ū(長い)
- -ŪC(長い)
※ 説明用の綴りで、単語としては意味がありません。
練習 2
先ほど音節に区切った例文で、音節の長短を調べてください。
アクセント
ラテン語のアクセントは日本語と同じような高低アクセントです。
位置は機械的に決まるため、単語ごとに覚える必要はありません。
原則
複数の音節がある単語では、最後の音節にアクセントは来ません。
各論
1音節語は前置詞のようにアクセントを付けない単語もあるため、あまり気にしなくても良いでしょう。
※ 英語でもinなどはアクセントを付けないのと同じような感覚です。
2音節語では前の音節にアクセントがあります。最後の音節に来ないため、必然的にそうなります。
- casa → cá|sa
3音節以上では、最後から2番目か3番目の音節にアクセントがあります。最後の音節にアクセントが来ることはないため無視します。最後から2番目の音節が短ければ、1つ前の音節にアクセントがあります。そうでなければ(最後から2番目の音節が長ければ)、最後から2番目の音節にアクセントがあります。
- agricola → a|grí|co|la
- amāre → a|mā́|re
- audiō → áu|di|ō
- columba→ co|lúm|ba
※ 「長=短+短」と考えれば、長い音節の中を遡ってもその中で納まると解釈できます。amāre が典型的な例で a|máa|re となり、音節を「短長短」と捉えればシンコペーションのリズム「タタータ」に似ています。これはモーラ(拍)の考え方に近いです。
練習 3
先ほど音節の長短を調べた例文に、アクセントを付けてください。
解答
練習 1
音節に区切ってください。(ガリア戦記・冒頭)
Gal|li|a est om|nis dī|vī|sa in par|tēs trēs, quā|rum ū|nam in|co|lunt Bel|gae, a|li|am A|qui|tā|nī, ter|ti|am, quī ip|sō|rum lin|guā Cel|tae, nos|trā Gal|lī ap|pel|lan|tur.
練習 2
先ほど音節に区切った例文で、音節の長短を調べてください。
Gal|li|a est om|nis dī|vī|sa in par|tēs trēs, quā|rum ū|nam in|co|lunt Bel|gae, a|li|am A|qui|tā|nī, ter|ti|am, quī ip|sō|rum lin|guā Cel|tae, nos|trā Gal|lī ap|pel|lan|tur.
練習 3
先ほど音節の長短を調べた例文に、アクセントを付けてください。
Gál|li|a est óm|nis dī|vī́|sa in pár|tēs trēs, quā́|rum ū́|nam ín|co|lunt Bél|gae, á|li|am A|qui|tā́|nī, tér|ti|am, quī ip|sṓ|rum lín|guā Cél|tae, nós|trā Gál|lī ap|pel|lán|tur.