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『趣味で量子力学2』を読みました

広江 克彦さんが『趣味で量子力学2』を発売されました。

一通り目を通しました。手短に紹介します。

  • 第2巻ということで初心者が最初に読む本ではありませんが、他の本で勉強した方なら知識の整理になるでしょう。
  • 現象論的な計算よりも、数学的手法の説明に重点が置かれています。
  • 言葉による説明が非常に丁寧で噛み砕かれており、理解のコツを習うことができます。量子力学で使われている数式の意味を把握するのには最適な本ではないでしょうか。行間を埋める必要も少なく、スムーズに読み進められます。
  • 第13章 摂動論と第15章 周期的ポテンシャルは難易度が高めです。

以下、個人的な学習経験に照らし合わせて、章別の感想を書きます。(書評というより感想です)

感想

私は物理を専門に習ったことはありませんが、以前、以下の本をテキストにした勉強会で量子力学を習いました。

しかし数学的・物理的な素養が足りなかったため、半分も理解できない状況でした。考え続けても埒が明かなかったため、いったん量子力学からは距離を置いて、周辺知識の拡充に努めることにしました。

以前より多少は知識が増えたかな、という段階で読んだのが本書です。以前にも同じ概念を習ったはずですが、理解するには何が足らなかったのかという問題意識を持ちながら読み進めました。以下、その視点での感想を述べます。

あとがき

いきなりあとがきですが、ここには私が量子力学に挫折した理由と関係することが記述されています。

量子力学は考える問題によって異なる数学を土台にしなければならず、理論が統一されていない。

シュレディンガー方程式の立て方が、運動方程式に比べて現象論的でアドホックだという印象を抱いていました。何かもうちょっとうまいコツのようなものがあるのではないかと勘繰っていました。それはある意味徒労で、代表的なケースをとりあえず学んでおこうくらいに割り切るべきでした。

量子力学というのは簡易な理論としてとりあえず採用されている体系であると考えられる。

量子力学の数式に対して、宇宙の構造を反映したものであることを過剰に期待していました。しかし実際には計算結果が有用であれば良いという割り切ったものでした。よく言われる以下の言葉です。

この言葉は知っていましたが、実際にはもうちょっと食い下がれるのではないかという希望的観測を抱いていました。

そんなナイーブな見方に対して、少し前に読んだ以下の本で見方が変わりました。

量子論を真に理解しようと思うならば、場の量子論を勉強する必要がある。場の量子論に触れずに量子論の不思議さについて語っている著作には、あまり信を置かない方が良いかもしれない。

宇宙の構造のようなことを期待するのであれば、量子力学はさっさと通り過ぎて場の量子論をやる必要があるということです。「量子力学ですらちんぷんかんぷんなのに、場の量子論なんて手が出るわけがない」と思っていたのですが、量子力学の範囲内で分かることには限界があるということは思い至りませんでした。

最近出た以下の本も、同じように量子力学の謎は場の量子論で解くというスタンスでした。

最近,量子力学の根幹にかかわる二重スリット現象の解明にQEDがカギとなることがわかり,俄然大きな反響が生まれている.

残念ながら同書は私のレベルでは手が出ませんでした。

場の量子論では以下の本が群を抜いて分かりやすいようなので、まずはこちらに挑戦してみようと思います。

話が逸れましたが、こうしてようやく量子力学を勉強する心構えのようなものができたので、本題である『趣味で量子力学2』に戻ります。

第1巻からの続きということで、章立ては第8章から始まります。

第8章 量子力学の体系

私のレベルに合っているためか、すらすら読めました。フーリエ変換の使い方が、解析力学でのルジャンドル変換に似ていることに気付きました(双対性)。最初に習った時点では解析力学の理解度も低く、そんな視点を持つことは不可能でした。

先ほども述べましたが、波動関数に対して場の量子論をやらずに解釈を求めても仕方がないと割り切れたのが、心理的障壁をなくすのには大きかったです。

第9章 ブラケット記法

この章では内積について述べられています。

別件ですが、機械学習のために内積と重み付けについて直観的な解釈を追求したのが、状態ベクトルがベクトルだと感じるのに役立ちました。

なるべく分野横断的に潰しが利くようなアプローチをしていきたいです。

また、ジョルダン標準形の本で基底について勉強し直していたのが役立ちました。

同書では、行列による座標変換において基底がどのように振る舞うのかということが分かりやすく解説されています。

第10章 演算子は行列だ

ユニタリー変換などが説明されていますが、非常にスムーズに読むことができました。

ユニタリー変換を最初に習ったときはちんぷんかんぷんでした。改めて見返すと、座標変換での反変・共変ベクトルと座標不変量としての内積を知ったことが、理解する上でのコツのように感じました。以前はこの手の数学的準備は退屈であまり好きではありませんでしたが、ある程度分かって来ると、知識の漏れを確認する意味でも慎重に読み進められるようになって来ました。

こうして振り返ると、特殊相対論の勉強時にテンソルで完膚なきまでに叩きのめされて、多重線形性について試行錯誤したことが非常に役立っています。前提知識として非相対論的な量子力学には特殊相対論は不要だと思っていましたが、数学的な前提知識という意味では、先にやっておくと何かとスムーズな気がします。

ユニタリー変換は基底にも時間発展にも適用できるとあります。そういえば解析力学でネーターの定理の説明に空間推進・時間推進が出て来たのを思い出しましたが、状況設定が異なるため直接は関係なさそうです。

確率の総和が1になる式と完全性条件が似ていて少し混乱しましたが、後者は太字の単位ベクトルなのに注意が必要です。この辺の理解がまだ甘いということを自覚しました。

ヒルベルト空間についても説明されていますが、物々しい(?)用語でびっくりしないように、とても優しく誘導されていると感じました。

第11章 連続固有値の扱い方

離散と連続について、他書では書かれていないようなぶっちゃけた見解が書かれており、面白かったです。

第12章 遷移確率

交換関係の説明は噛み砕かれていて目から鱗でした。似たような説明は読んだのかもしれませんが、基底変換で斜交座標に移す操作を知る前は何を計算しているのかイメージできなかったので、理解不能なまま忘れてしまったのだと思います。

ふと、フーリエ変換で周波数成分がどうこうみたいな捉え方をするよりも、斜交座標に移すようなイメージを持っていた方が、変な所で悩まないような気がして来ました。もちろん実務的にはフーリエ変換をすらすら計算できることが必要ですが、概念が分からないまま計算で乗り切るような腕力は持ち合わせていないです。

第13章 摂動論

正直、急に難しくなったと感じました。貯金(予備知識)を使い果たしてしまったようです。知らない内容だと、途端に道が険しくなってしまいます。

あまり理解せずに読み流してしまったので、後でまた読み返そうと思います。

第14章 周期的境界条件

ここは短くてそれほど難しくなかったので、さらっと読めました。なぜ周期的境界条件を考えるのか曖昧だったので、理解が進みました。

第15章 周期的ポテンシャル

この章も私には難しかったため、半ばやっつけで読んでしまいました。細かい計算は追わなかったのでお話を追う感じになってしまい、理解したとは言い難いです。言葉による説明が多いので、繰り返し読めば理解の余地はあるように思います。

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感想は以上です。

この記事は、本を読みながらツイートした内容を整理したものです。

こうすれば割と気楽に感想が書けるので、以後もこのスタイルを試そうかと思います。