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プランク単位系の導出と解釈

プランク単位系は、ディラック定数 ℏ、光速 c、万有引力定数 G という物理学の基本定数を用いて構築される自然単位系です。本記事では、プランク単位系の主要な物理量の導出とその解釈について解説します。

目次

光速と時空の基本単位

プランク単位系において、速度の単位は光速 $c$ です。プランク長$l_p$ の距離を光が移動する時間としてプランク時間 $t_p$ が定義されます。👉wikipedia:時間の比較

\frac{l_p}{t_p} = c

時空の量子化

プランク長さとプランク時間を、時空の基本単位と考えて分割(量子化)するモデルが考えられます。

これを物理理論としてではなく、単純にモデル化したのがセル・オートマトンです。セル・オートマトンでは、1 単位時間で隣接セルに移動する速度が最大速度(光速)となります。

物理学における光速からの類推で、情報が伝わる最高速度を光速という。つまり光速は、移動するパターンの移動速度の上限値であり、いかなるパターンも光速を超えて移動することはできない[1]

なお、物理理論としてはループ量子重力理論が時空の量子化に基づいたモデルです。スピンネットワークと呼ばれるグラフ構造を持っており、セル・オートマトンよりも複雑です。

ループ量子重力理論(ループりょうしじゅうりょくりろん)は、時空(時間と空間)にそれ以上の分割不可能な最小単位が存在することを記述する理論である。超弦理論と並び、重力の古典論である一般相対性理論量子化した量子重力理論の候補である[1]

相空間と不確定性関係

相空間(位置と運動量を基底とする空間)における面積は、作用の次元を持ちます。プランク単位系では、プランク長さとプランク運動量の積がディラック定数であると定義されます。

l_p p_p = \hbar

ここで、プランク運動量 $p_p$プランク質量 $m_p$ と光速の積です。

p_p = m_p c

よって、以下の関係が導かれます。

l_p m_p c = \hbar

$m_p$ は質量の最小単位ではないため(後述)、$p_p$ も運動量の最小単位ではありません。

作用の最小単位?

ハイゼンベルグの不確定性関係における最小値は $\hbar/2$ です。

\Delta x \Delta p \geq \frac{\hbar}2

このことから $\hbar/2$ が作用の最小単位であると考えられることもありますが、次のような研究もあります。

プランク定数は位置と運動量の積の次元を持ち、不確定性関係から位相空間での面積の最小単位であるとも考えられているが、最近では Zurek らの研究で、量子カオス系においてはプランク定数以下のミクロ構造が現れる事がわかった[13]

脱出速度とプランク質量

プランク質量の導出には、重力の効果を考慮します。一般に、質量 $M$ の天体からの脱出速度 $v_e$ は以下の公式で与えられます。👉関連記事

v_e = \sqrt{\frac{2GM}{r}}

プランク質量 $m_p$ からの脱出速度が光速 $c$ となるシュワルツシルト半径 $r$ を考えます。関係式が基本定数 $\hbar,c,G$ のみで表現できるようにするため、$r = 2l_p$ と設定します。

c = \sqrt{\frac{2Gm_p}{2l_p}} = \sqrt{\frac{Gm_p}{l_p}}

$r=l_p$ とした場合、関係式に 2 が残ります。それを回避するための措置です。

関係式 $l_p m_p c = \hbar$ より $l_p=\dfrac{\hbar}{m_pc}$ を代入すれば、$m_p$ の関係式が得られます。

\begin{aligned}
c &= \sqrt{\frac{G {m_p}^2 c}{\hbar}} \\
c^2 &= \frac{G m_p^2 c}{\hbar} \\
c &= \frac{G m_p^2}{\hbar} \\
m_p &= \sqrt{\frac{\hbar c}{G}}
\end{aligned}

プランクスケールでの物理的考察

プランク体積 ${l_p}^3$ のセルにプランク質量 $m_p$ を詰め込んだ場合、そのセルはシュワルツシルト半径 $2l_p$ の内側に位置するため、ブラックホール化します。

先ほど見たように、シュワルツシルト半径を $2l_p$ と定義したのは基本定数だけで表現するためですが、これにはそれほど物理的根拠があるわけではありません。この辺りの事情については、EMAN さんの考察が参考になります。

eman-physics.net

プランク長さとプランク時間の導出

プランク質量の関係式を用いて、プランク長さの関係式が導出できます。

l_p = \frac{\hbar}{m_p c} = \frac{\hbar}{\sqrt{\frac{\hbar c^3}{G}}} = \sqrt{\frac{\hbar G}{c^3}}

この関係式から、プランク時間の関係式も得られます。

t_p = \frac{l_p}{c} = \sqrt{\frac{\hbar G}{c^5}}

こうして、プランク単位系の基本的な物理量 $l_p,t_p,m_p$ が、基本定数 $\hbar,c,G$ のみを用いて表現できました。

プランク単位系の物理量

プランク単位系の各物理量の定義式から物理量を計算します。

  • プランク長さ:$l_p = \sqrt{\dfrac{\hbar G}{c^3}} \approx 1.6 \times 10^{-35} \text{ m}$
  • プランク時間$t_p = \sqrt{\dfrac{\hbar G}{c^5}} \approx 5.4 \times 10^{-44} \text{ s}$
  • プランク質量$m_p = \sqrt{\dfrac{\hbar c}{G}} \approx 2.2 \times 10^{-8} \text{ kg}$

プランク長さとプランク時間は現在観測可能な最小スケールよりも遥かに小さく、ループ量子重力理論のように時空の最小単位として扱う理論もあります。

一方、プランク質量は既知の素粒子の質量(例:陽子 $1.7×10^{-27} \mathrm{kg}$)よりもはるかに大きいため、質量の最小単位ではありません。

他の自然単位の値が非常に小さいか大きいかであるのとは異なり、プランク質量の値はほぼ人間が取り扱えるスケール内にある。すなわち、1gPは一般的なコピー用紙(坪量 64g/m2)を 1mm×0.3mm に切ったものの質量くらいである。

前述のようにプランク体積にプランク質量を詰め込めばブラックホール化するため、プランクスケールにおける質量の上限がこの辺りにあるとは言えそうです。