【お知らせ】プログラミング記事の投稿はQiitaに移行しました。

ディラック作用素とマクスウェル方程式

Physics Advent Calendar 2017 7日目の参加記事です。

ディラック作用素マクスウェル方程式を求めるまでの流れを説明します。計算の道具として使うことを想定して、厳密さには拘らずになるべく直観的に記述します。

この記事は元ニート2号さんにご教授頂いた理論をベースにしています。ここに感謝の意を表します。

ディラック作用素

2変数関数を全微分します。


\begin{align*}
df(x,y)
&=\frac{∂f}{∂x}dx+\frac{∂f}{∂y}dy\\
&=\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}\right)f
\end{align*}

微分の作用を分離したものをディラック作用素として定義します。


\displaystyle D:=dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}

余接ベクトル

dx,dy はベクトル空間の基底となるため、表式はベクトルと同一視できます。


\begin{align*}
f\,dx+g\,dy&≅\left(\begin{matrix}f\\g\end{matrix}\right)\\
D=dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}&≅\left(\begin{matrix}\frac{∂}{∂x} \\ \frac{∂}{∂y}\end{matrix}\right)=\nabla
\end{align*}

これを余接ベクトルと呼びます。

ラプラス=ド・ラーム作用素

ディラック作用素の自乗はラプラス=ド・ラーム作用素と呼ばれます。

ディラック作用素ラプラシアンラプラス作用素)の平方根となるように定義されます。自乗すればラプラシアンを再現します。


\begin{align*}
D^2
&=D\left(dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}\right)\\
&=\left(D\frac{∂}{∂x}\right)dx+\left(D\frac{∂}{∂y}\right)dy\\
&=\left(dx\frac{∂^2}{∂x^2 }+dy\frac{∂^2}{∂y∂x}\right)dx
 +\left(dx\frac{∂^2}{∂x∂y}+dy\frac{∂^2}{∂y^2 }\right)dy\\
&=\underbrace{dx^2}_1\frac{∂^2}{∂x^2}+\underbrace{dy^2}_1\frac{∂^2}{∂y^2}+\underbrace{(dx\,dy+dy\,dx)}_0\frac{∂^2}{∂x∂y}\\
&=\frac{∂^2}{∂x^2}+\frac{∂^2}{∂y^2}\\
&=Δ
\end{align*}

途中でクリフォード代数の関係式を使っています。

クリフォード代数

内積外積を同時に扱う代数系です。積は幾何積と呼びます。


dx^2=dy^2=1\\
dx\,dy=-dy\,dx

前者は内積、後者は外積(ウェッジ積)を表します。外積の関係式は「順序を交換すると符号が転する」と解釈して反交換性と呼びます。

3つ以上の基底の積を計算する場合、内積を計算するには反交換性を使って隣接させる必要があります。


\displaystyle dx\,\underbrace{dy\,dx}_{交換}=-\underbrace{dx\,dx}_{1}\,dy=-dy

積に含まれる基底の数をグレードと呼びます。内積によってグレードが下がることを縮約と表現します。

微分・余微分

ディラック作用素を計算すると、基底が縮約する項としない項に分かれます。これらを分離して、縮約する部分を生成する作用を微分 δ、縮約しない方を微分 d と呼びます。


\begin{align*}
D(X\,dx+Y\,dy)
&=\left(\frac{∂X}{∂x}dx+\frac{∂X}{∂y}dy\right)dx+\left(\frac{∂Y}{∂x}dx+\frac{∂Y}{∂y}dy\right)dy\\
&=\frac{∂X}{∂x}\underbrace{dx\,dx}_{縮約}+\frac{∂X}{∂y}\underbrace{dy\,dx}_{交換}+\frac{∂Y}{∂x}dx\,dy+\frac{∂Y}{∂y}\underbrace{dy\,dy}_{縮約}\\
&=\underbrace{\frac{∂X}{∂x}+\frac{∂Y}{∂y}}_{余微分\,δ}+\underbrace{\left(\frac{∂Y}{∂x}-\frac{∂X}{∂y}\right)dx\,dy}_{外微分\,d}
\end{align*}

この関係を D=δ+d と表現します。幾何積は内積外積を含みますが、ディラック作用素との幾何積だと見なせば、内積が余微分外積が外微分に相当します。

ディラック作用素により余微分と外微分に分岐するとイメージできます。

f:id:n7shi:20171207182610p:plain

ラプラス=ド・ラーム作用素は基底を含まないことからグレードを変えません。これは連続した外微分や余微分が 0 になるためです。


dd=δδ=0

一度分岐して、再度収斂することから、菱形としてイメージできます。

f:id:n7shi:20171207182627p:plain

これを式で表すと次の通りです。


D^2=(δ+d)^2=\underbrace{δδ}_0+dδ+δd+\underbrace{dd}_0=dδ+δd

ミンコフスキー空間

時間1次元と空間3次元で構成されます。簡単のため光速を 1 とおいて、ディラック作用素内積は次のように定義します。内積は空間の計量を表します。異なる基底同士の反交換性は2次元と同様です。


\displaystyle D:=dt\frac{∂}{∂t}+dx\frac{∂}{∂x}+dy\frac{∂}{∂y}+dz\frac{∂}{∂z}\\
dt^2=1,\ dx^2=dy^2=dz^2=-1

ラプラス=ド・ラーム作用素ダランベルシアンとなります。


\displaystyle D^2=\frac{∂^2}{∂t^2}-\frac{∂^2}{∂x^2}-\frac{∂^2}{∂y^2}-\frac{∂^2}{∂z^2}=\Box

電磁ポテンシャル

電磁場の源となるベクトル場を電磁ポテンシャルと呼び A と表記します。時間成分はスカラーポテンシャル φ、空間成分はベクトルポテンシャル -\vec{A} として含みます。

※ 電磁ポテンシャル Aベクトルポテンシャル \vec{A} は矢印で区別します。


\displaystyle A:=φ\,dt-\vec{A}_x\,dx-\vec{A}_y\,dy-\vec{A}_z\,dz≅\left(\begin{matrix}φ \\ -\vec{A}_x \\ -\vec{A}_y \\ -\vec{A}_z\end{matrix}\right)

電磁ポテンシャルにディラック作用素を適用した DA を計算します。外微分 dA と余微分 δA が得られます。後で説明する事項も注釈として入れておきます。偏微分の記法は後述します。


\begin{align*}
DA
&=D(φ\,dt-\vec{A}_x\,dx-\vec{A}_y\,dy-\vec{A}_z\,dz)\\
&\left.\begin{array}{l}
  =\underbrace{
    φ_{,t}+\vec{A}_{x,x}+\vec{A}_{y,y}+\vec{A}_{z,z}
  }_{\frac{∂φ}{∂t}+\mathrm{div}\,\vec{A}=0}
\end{array}\right\}{\scriptsize δA=0}\\
&\quad\left.\begin{array}{l}
  \underbrace{
    +(-\vec{A}_{x,t}-φ_{,x})dt\,dx\\
    +(-\vec{A}_{y,t}-φ_{,y})dt\,dy\\
    +(-\vec{A}_{z,t}-φ_{,z})dt\,dz
  }_{-\frac{∂\vec{A}}{∂t}-\mathrm{grad}\,φ=:\vec{E}}\\
  \underbrace{
    +(-\vec{A}_{z,y}+\vec{A}_{y,z})dy\,dz\\
    +(-\vec{A}_{x,z}+\vec{A}_{z,x})dz\,dx\\
    +(-\vec{A}_{y,x}+\vec{A}_{x,y})dx\,dy
  }_{-\mathrm{rot}\,\vec{A}=:-\vec{B}}
\end{array}\right\}{\scriptsize dA=:F}\\
\end{align*}

δA 全体は grad、dA 全体は rot を4次元に拡張した形になっています。その中から3次元成分を切り出して注釈を加えています。

f:id:n7shi:20171207182653p:plain

コンマで区切った後の添え字は偏微分を表します。


\begin{align*}
φ_{,x}&=\frac{∂φ}{∂x}\\
\vec{A}_{x,y}&=\frac{∂\vec{A}_x}{∂y}
\end{align*}

ゲージ変換

電磁ポテンシャルには dA に影響しない範囲での自由度があります。dd=0 より、任意のスカラーχ の外微分 dχ が該当します。


A':=A+dχ\\
dA'=dA+\underbrace{ddχ}_0=dA

このように電磁ポテンシャルを変形する操作をゲージ変換と呼びます。

f:id:n7shi:20171207182714p:plain

このような操作は捉え所がないように感じるかもしれません。外微分微分の一種ですから、微分で消える(0 になる)要素を加えているという意味合いで、とりあえず積分定数 C のようなものだとイメージしておけば良いでしょう。


\begin{align*}
\int f(x)\,dx&=F(x)+C\\
\int dA&=A+dχ
\end{align*}

ローレンス条件

ゲージ変換により余微分δA=0 となるように調整できます。


\displaystyle \frac{∂φ}{∂t}+\mathrm{div} \vec{A}=0

これをローレンス条件と呼びます。ローレンツ条件とも表記されますが、ローレンツ変換ローレンツとは別人で、区別のためローレンスの表記を使用します。

f:id:n7shi:20171207182748p:plain

今回対象とする電磁ポテンシャル A はローレンス条件を満たすように調整されているとします。

電磁テンソル

dA を電磁テンソル F と定義します。これは電磁場の表現で、ファラデーテンソルとも呼ばれます。時間基底の有無で項を分離して、電場 \vec{E} と磁束密度 -\vec{B} に割り当てます。簡単のため誘電率透磁率は 1 とします。


\begin{align*}
F:=&dA\\
  =&\vec{E}_x\,dt\,dx+\vec{E}_y\,dt\,dy+\vec{E}_z\,dt\,dz
    -\vec{B}_x\,dy\,dz-\vec{B}_y\,dz\,dx-\vec{B}_z\,dx\,dy
\end{align*}

成分を確認します。


\begin{align*}
\vec{E}
&=\left(\begin{matrix}\vec{E}_x \\ \vec{E}_y \\ \vec{E}_z\end{matrix}\right)
 =\left(\begin{matrix}-\vec{A}_{x,t}-φ_{,x} \\ -\vec{A}_{y,t}-φ_{,y} \\ -\vec{A}_{z,t}-φ_{,z}\end{matrix}\right)
 =-\frac{∂\vec{A}}{∂t}-\mathrm{grad}\,φ\\
\vec{B}
&=\left(\begin{matrix}\vec{B}_x \\ \vec{B}_y \\ \vec{B}_z\end{matrix}\right)
 =\left(\begin{matrix}\vec{A}_{z,y}-\vec{A}_{y,z} \\ \vec{A}_{x,z}-\vec{A}_{z,x} \\ \vec{A}_{y,x}-\vec{A}_{x,y}\end{matrix}\right)
 =\mathrm{rot}\,\vec{A}
\end{align*}

マクスウェル方程式

電磁テンソル Fディラック作用素を適用すればマクスウェル方程式が得られます。後で説明する事項も注釈として入れておきます。


\begin{align*}
DF
&=D(\vec{E}_x\,dt\,dx+\vec{E}_y\,dt\,dy+\vec{E}_z\,dt\,dz-\vec{B}_x\,dy\,dz-\vec{B}_y\,dz\,dx-\vec{B}_z\,dx\,dy)\\
&\left.\begin{array}{l}
  =\underbrace{
    (\vec{E}_{x,x}+\vec{E}_{y,y}+\vec{E}_{z,z})dt
  }_{\mathrm{div}\,\vec{E}=:ρ}\\
  \quad\underbrace{
    +(\vec{E}_{x,t}-\vec{B}_{z,y}+\vec{B}_{y,z})dx\\
    +(\vec{E}_{y,t}-\vec{B}_{x,z}+\vec{B}_{z,x})dy\\
    +(\vec{E}_{z,t}-\vec{B}_{y,x}+\vec{B}_{x,y})dz
  }_{\frac{∂\vec{E}}{∂t}-\mathrm{rot}\,\vec{B}=:-\vec{j}}
\end{array}\right\}{\scriptsize δF=:J}\\
&\quad\left.\begin{array}{l}
  \underbrace{
    +(-\vec{B}_{x,x}-\vec{B}_{y,y}-\vec{B}_{z,z})dx\,dy\,dz
  }_{\mathrm{div}\,\vec{B}=0}\\
  \underbrace{
    +(-\vec{B}_{x,t}-\vec{E}_{z,y}+\vec{E}_{y,z})dt\,dy\,dz\\
    +(-\vec{B}_{y,t}-\vec{E}_{x,z}+\vec{E}_{z,x})dt\,dz\,dx\\
    +(-\vec{B}_{z,t}-\vec{E}_{y,x}+\vec{E}_{x,y})dt\,dx\,dy
  }_{\frac{∂\vec{B}}{∂t}+\mathrm{rot}\,\vec{E}=0}
\end{array}\right\}{\scriptsize dF=0}\\
\end{align*}

dF=ddA=0 より次の2本の式が得られます。


\left\{\begin{align*}
\mathrm{div}\,\vec{B}&=0\\
\frac{∂\vec{B}}{∂t}+\mathrm{rot}\,\vec{E}&=0
\end{align*}\right.

四元電流密度

δF を四元電流密度 J と定義します。時間成分を電荷密度 ρ、空間成分を電流密度 -\vec{j} に割り当てます。


\begin{align*}
J:=&δF\\
  =&ρdt-\vec{j}_x\,dx-\vec{j}_y\,dy-\vec{j}_z\,dz
\end{align*}

成分を確認します。


\begin{align*}
\vec{j}
=\left(\begin{matrix}
  \vec{j}_x \\ \vec{j}_y \\ \vec{j}_z
 \end{matrix}\right)
=\left(\begin{matrix}
  -\vec{E}_{x,t}+\vec{B}_{z,y}-\vec{B}_{y,z}\\
  -\vec{E}_{y,t}+\vec{B}_{x,z}-\vec{B}_{z,x}\\
  -\vec{E}_{z,t}+\vec{B}_{y,x}-\vec{B}_{x,y}
 \end{matrix}\right)
=-\frac{∂\vec{E}}{∂t}+\mathrm{rot}\,\vec{B}
\end{align*}

これにより残りの2本の式が得られます。


\left\{\begin{align*}
\mathrm{div}\,\vec{E}&=ρ\\
-\frac{∂\vec{E}}{∂t}+\mathrm{rot}\,\vec{B}&=\vec{j}
\end{align*}\right.

δF=J電荷の流れを表すのと対比すれば、dF=0 は磁荷(モノポール)の流れが存在しないということを意味するようです。

まとめ

電磁ポテンシャルからマクスウェル方程式までは一本の式にまとまります。


D^2A=J

dA=F から \vec{E}\vec{B}δF=J から ρ\vec{j} を定義すれば、4本のマクスウェル方程式が得られます。


DF=J \quad
\left\{\begin{array}{l}
dF=0\\\\\\
δF=J
\end{array}\ \ \right.
\begin{array}{l}
  \left\{\begin{array}{r}
    \ \ \,\mathrm{div}\,\vec{B}=0\\
    \ \ \,\displaystyle \frac{∂\vec{B}}{∂t}+\mathrm{rot}\,\vec{E}=0
  \end{array}\right.\\
  \left\{\begin{array}{r}
    \mathrm{div}\,\vec{E}=ρ\\
    \displaystyle -\frac{∂\vec{E}}{∂t}+\mathrm{rot}\,\vec{B}=\vec{j}
  \end{array}\right.
\end{array}

関係を図にまとめます。

f:id:n7shi:20171208095942p:plain

ディラック作用素の二股に分岐する表現がうまく当てはまっていると感じます。