角度を単位円上の点として扱う幾何代数の技法によって、角の二等分線の性質を確認します。
クリフォード代数は使用しないで、複素平面上でオイラーの公式に基づく計算を行います。
※ 記事執筆者自身による改訂版です。
【元記事】オイラーの公式と角の二等分線 - MathWills
目次
※ 図は Markdown に SVG を直接記述しています。詳細はこちらをご参照ください。
前提知識
以下の記事で説明した技法を応用します。基本的な流れはほぼ同じです。
角の二等分線
三角形 $△ABC$
を角 $A$
の二等分線によって分割します。辺 $AB,AC$
の長さの比は、二等分線によって分割された底辺 $BD,DC$
の長さの比に等しいです。
AB:AC=BD:DC
$A,B,C,D$
を複素平面上の点として、計算の便宜上 $A=0$
とします。比は以下の式で表されます。
\frac{|B|}{|C|}=\frac{|D-B|}{|C-D|}
これが成り立つことを確認します。
確認
辺 $BC$
の長さは辺 $BD,DC$
の長さの和です。
|C-B|=|D-B|+|C-D|
両辺を $|C-B|$
で割って $t$
を定義します。
1=&\frac{|D-B|}{|C-B|}+\frac{|C-D|}{|C-B|} \\ t:=&\frac{|D-B|}{|C-B|} \\ 1-t=&\frac{|C-D|}{|C-B|}
点 $D$
は点 $B$
を辺 $BD$
の長さだけ点 $C$
の方向へ動かしたものです。これを式で表現します。
D &=B+|D-B|\frac{C-B}{|C-B|} \\ &=B+t(C-B) \\ &=(1-t)B+tC
※ $t$
は底辺 $BC$
が点 $D$
によって分割された比率を表します。
点を正規化(絶対値で割ること)すれば単位円上の点となるため、オイラーの公式によって角度差が単位円上の点として表現されます。
e^{i∠BAD}=\frac{\overline B}{|B|}\frac{D}{|D|},\quad e^{i∠DAC}=\frac{\overline D}{|D|}\frac{C}{|C|}
角の二等分線という条件から $e^{i∠BAD}=e^{i∠DAC}$
を仮定して、左辺から右辺を引きます。
&\frac{\overline B}{|B|}\frac{D}{\cancel{|D|}}-\frac{\overline D}{\cancel{|D|}}\frac{C}{|C|}=0 \\ &\frac{\overline B}{|B|}\{(1-t)B+tC\}-\overline{\{(1-t)B+tC\}}\frac{C}{|C|}=0 \\ &(1-t)|B|+t\frac{\overline B}{|B|}C-(1-t)\overline B\frac{C}{|C|}-t|C|=0 \\ &(1-t)|B|-t|C|+\overline BC\left(\frac{t}{|B|}-\frac{1-t}{|C|}\right)=0 \\ &\{(1-t)|B|-t|C|\}+\frac{\overline BC}{|BC|}\{t|C|-(1-t)|B|\}=0 \\ &\{(1-t)|B|-t|C|\}\left(1-\frac{\overline BC}{|BC|}\right)=0 \\ &∴\begin{cases}\begin{aligned} (1-t)|B|&=t|C| & \cdots\ (1) \\ &\text{または} \\ \frac{B\overline C}{|BC|}&=1 & \cdots\ (2) \end{aligned}\end{cases}
$(2)$
の左辺は e^{i∠A}
であることから $∠A=0$
となり、$△ABC$
が潰れるため除外します。
$(1)$
は $D=(1-t)B+tC$
の右辺各項の絶対値が等しいことを表します。つまり図 2 の赤い二辺の長さは等しいです。
$(1)$
を整理します。
\frac{|C-D|}{|C-B|}|B|&=\frac{|D-B|}{|C-B|}|C| \\ \frac{|B|}{|C|} &=\frac{|D-B|}{|C-B|}\frac{|C-B|}{|C-D|} \\ &=\frac{|D-B|}{|C-D|}
よって辺 $AB,AC$
の長さの比が、等分線によって分割された底辺 $BD,DC$
の長さの比に等しいことが確認できました。
AB:AC=BD:DC
※ 二等辺三角形の場合は両辺が $1$
になります。
まとめ
要点を整理します。
$D$
を $B,C$
の線形結合で表します。
D&=\frac{|C-D|}{|C-B|}B+\frac{|D-B|}{|C-B|}C &\cdots\ (3)
角の二等分から等式を立てます。
\frac{\overline B}{|B|}\frac{D}{|D|}=\frac{\overline D}{|D|}\frac{C}{|C|}
これに $(3)$
を代入して計算すれば、$(3)$
の右辺各項の絶対値が等しいことが導かれます。
\frac{|C-D|}{|C-B|}|B|=\frac{|D-B|}{|C-B|}|C|
計算を進めれば辺の比率についての等式が得られます。
\frac{|B|}{|C|}=\frac{|D-B|}{|C-D|}
長さ
二等分線の長さを計算します。絶対値を 2 乗して、複素共役との積の形で計算を進めます。
|D|^2 &=D\overline D \\ &=\left\{(1-t)B+tC\right\}\overline{\left\{(1-t)B+tC\right\}} \\ &=(1-t)^2|B|^2+t(1-t)(B\overline C+C\overline B)+t^2|C|^2 &\cdots\ (4)
$B\overline C+C\overline B$
を置き換えるため、底辺の長さの 2 乗を計算します。
|B-C|^2 &=(B-C)\overline{(B-C)} \\ &=|B|^2+|C|^2-\underbrace{(B\overline C+C\overline B)}_{2|B||C|\cos∠A} &\cdots\ (5) \\ ∴B\overline C+C\overline B&=|B|^2+|C|^2-|B-C|^2 &\cdots\ (6)
※ $(5)$
は余弦定理に相当します。
$(4)$
に $(6)$
を代入します。
|D|^2 &=(1-t)^2|B|^2+t(1-t)(|B|^2+|C|^2-|B-C|^2)+t^2|C|^2 \\ &=(1-t)|B|^2+t|C|^2-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=t|B||C|+(1-t)|B||C|-t(1-t)|B-C|^2 &\because(1) \\ &=|B||C|-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=|B||C|-\frac{|D-B|}{|C-B|}\frac{|C-D|}{|C-B|}|B-C|^2 \\ &=|B||C|-|D-B||C-D| &\cdots\ (7)
かなりすっきりした形になりました。
ピタゴラスの定理との関係
$(7)$
を辺の長さで書き換えます。以下の式は複素数ではなく、$AB$
などは辺の長さを表します。
AD×AD=AB×AC-BD×DC
足し算で表せるように式変形します。
AB×AC&=AD×AD+BD×DC &\cdots\ (8)
これはピタゴラスの定理を交差させたような関係になっています。
$△ABC$
が二等辺三角形となる場合を考えると分かりやすいです。$AB=AC,BD=DC$
であれば $(8)$
は 2 つの直角三角形 $△ABD,△ACD$
についてのピタゴラスの定理となります。
AB×AB&=AD×AD+BD×BD \\ AC×AC&=AD×AD+DC×DC
補足
$A=0$
としなかった場合の式変形です。
$D$
の相対座標をパラメーター表示します。
D-A=(1-t)(B-A)+t(C-A)
角の二等分を表す等式を整理します。
&\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}\frac{(D-A)}{\cancel{|D-A|}}=\frac{\overline{(D-A)}}{\cancel{|D-A|}}\frac{(C-A)}{|C-A|} \\ &\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}(D-A)-\overline{(D-A)}\frac{(C-A)}{|C-A|}=0 \\ &\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\}-\overline{\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\}}\frac{(C-A)}{|C-A|}=0 \\ &(1-t)|B-A|+t\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}(C-A)-(1-t)\overline{(B-A)}\frac{(C-A)}{|C-A|}-t|C-A|=0 \\ &(1-t)|B-A|-t|C-A|+\overline{(B-A)}(C-A)\left(\frac{t}{|B-A|}-\frac{1-t}{|C-A|}\right)=0 \\ &\{(1-t)|B-A|-t|C-A|\}+\frac{\overline{B-A}}{|B-A|}\frac{C-A}{|C-A|}\{t|C-A|-(1-t)|B-A|\}=0 \\ &\{(1-t)|B-A|-t|C-A|\}\left(1-\frac{\overline{B-A}}{|B-A|}\frac{C-A}{|C-A|}\right)=0 \\ &\therefore (1-t)|B-A|=t|C-A|
二等分線の長さを計算します。
&|D-A|^2 \\ &=(D-A)\overline{(D-A)} \\ &=\left\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\right\}\overline{\left\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\right\}} \\ &=(1-t)^2|B-A|^2+t(1-t)\{(B-A)\overline{(C-A)}+(C-A)\overline{(B-A)}\}+t^2|C-A|^2 \\ &=(1-t)^2|B-A|^2+t(1-t)\{|B-A|^2+|C-A|^2-|B-C|^2\}+t^2|C-A|^2 \\ &=(1-t)|B-A|^2+t|C-A|^2-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=t|B-A||C-A|+(1-t)|B-A||C-A|-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=|B-A||C-A|-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=|B-A||C-A|-\frac{|D-B|}{|C-B|}\frac{|C-D|}{|C-B|}|B-C|^2 \\ &=|B-A||C-A|-|D-B||C-D|
以下の結果を使っています。(余弦定理に相当)
\begin{aligned} |B-C|^2 &=|(B-A)-(C-A)|^2 \\ &=\{(B-A)-(C-A)\}\overline{\{(B-A)-(C-A)\}} \\ &=|B-A|^2+|C-A|^2-\underbrace{\{(B-A)\overline{(C-A)}+(C-A)\overline{(B-A)}\}}_{2\cos∠A} \\ \end{aligned} \\ ∴(B-A)\overline{(C-A)}-(C-A)\overline{(B-A)}=|B-A|^2+|C-A|^2-|B-C|^2
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