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単位行列と逆行列

恒等変換から単位行列、逆変換から逆行列を定義します。

シリーズの記事です。

  1. 一次変数変換と行列の積
  2. 単位行列逆行列 ← この記事
  3. 掃き出し法と逆行列
  4. 行列の積の性質
  5. 行列の演算
  6. ケイリー・ハミルトンの定理
  7. 零行列と冪零行列
  8. 冪零行列と二重数
  9. 零因子ペアの生成
  10. 三種類の二元数
  11. 分解型四元数と同型対応
  12. 分解型四元数と幾何代数
  13. 行列表現と外積と行列式

目次

単位行列

次の式は変数 $x,y$ と $x',y'$ が等しいことを表します。

\begin{cases} x=x' \\ y=y' \end{cases}

このように何も変化しない変換を恒等変換と呼びます。

行列の形に直すときは各変数に対して係数が必要です。存在しない項は係数 $0$ と見なします。

\begin{cases} x=1x'+0y' \\ y=0x'+1y' \end{cases}

恒等変換に対応する行列を単位行列と呼びます。$I$ と表記します。

単位行列
I=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}

※ $E$ と表記されることもあります。

性質

単位行列に他の行列を掛けても元のままです。

\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}

単位行列を $I$ と表記するのは、この性質が $1$ を掛けることに似ているためです。

単位行列の性質
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}I =I\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}

逆行列

$x,y$ は別の変数 $x',y'$ の一次式で表されるとします。

\tag{1} \begin{cases} x=ax'+by' \\ y=cx'+dy' \end{cases}

この連立方程式を $x',y'$ について解けば、関係を逆にして $x',y'$ を $x,y$ の一次式で表せます。

$y'$ の係数を揃えて消します。

\begin{cases} dx=adx'+bdy' \\ by=bcx'+bdy' \end{cases}
\tag{2} dx-by=(ad-bc)x'

$x'$ の係数を揃えて、消す際に $ad-bc$ が現れるように引きます。(理由は後述)

\begin{cases} cx=acx'+bcy' \\ ay=acx'+ady' \end{cases}
\tag{3} ay-cx=(ad-bc)y'

解が得られました。

\tag{4} \left\{\begin{aligned} x'&=\frac{dx-by}{ad-bc} \\ y'&=\frac{-cx+ay}{ad-bc} \end{aligned}\right.

$(1),(4)$ から右辺の係数を抜き出します。

\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}, \begin{pmatrix} \frac{d}{ad-bc} & -\frac{b}{ad-bc} \\ -\frac{c}{ad-bc} & \frac{a}{ad-bc} \end{pmatrix}

$(4)$ は $(1)$ の逆変換です。逆変換を行列の形にしたものは逆行列と呼びます。肩に $-1$ を付けることで逆行列を得る操作を表します。分数が並ぶと煩雑なため共通因子を括り出します。

逆行列
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1} =\frac{1}{ad-bc} \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}

行列の成分を比較すると、対角線上(Xの字)のペアで、$a$ と $d$ は位置を入れ替えて、$b$ と $c$ は位置はそのままで符号を反転していることが分かります。

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逆行列の成分は解を求める際の引き算に対応しています。これを示すために $(3)$ を $ay-cx$ としました。

\begin{array}{r}dx-by\\ay-cx=-cx+ay\end{array} \ \mapsto\ \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}

実用上は $dx-by$ の対応を意識しておけば、$d$ が位置の入れ替えで、$-b$ が符号の反転だと分かるでしょう。$(2)$ を再掲します。分母の $ad-bc$ も現れます。

\tag{2} dx-by=(ad-bc)x'

逆行列を持たない行列

逆行列には分数が現れるため、分母 $ad-bc=0$ のときに逆行列が求まりません。これは連立方程式が解けないことに対応します。

【例】

\begin{cases} x=2x'+4y' \\ y=3x'+6y' \end{cases}
2×6-4×3=0

右辺の係数を合わせて引くと $0$ になって解が求まりません。

\begin{cases} 3x=6x'+12y' \\ 2y=6x'+12y' \end{cases}
3x-2y=0

この関係を一般化すれば、右辺が定数倍の関係にあれば解が求まらず、$ad-bc=0$ となります。

\begin{cases} x=ax'+by' \\ y=cx'+dy'=n(ax'+by') \end{cases}
c=na,\ d=nb \\ ad-bc=a(nb)-b(na)=0

$b=ma$ とすれば、縦に定数倍の関係にあれば、横にも定数倍の関係にあることが分かります。特別な形として $n=0$ や $m=0$ の場合も含みます。また、行や列を入れ替えても同様です。

逆行列を持たない行列
\begin{pmatrix}a&b\\na&nb\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}a&ma\\c&mc\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}a&ma\\na&nma\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix} ,\begin{pmatrix}a&b\\0&0\end{pmatrix} ,\begin{pmatrix}a&0\\c&0\end{pmatrix} ,\begin{pmatrix}0&0\\c&d\end{pmatrix} ,\begin{pmatrix}0&b\\0&d\end{pmatrix}

正則行列

この節では逆行列を持つ、つまり $ad-bc≠0$ であるケースを考えます。

$(1),(4)$ を再掲します。

\tag{1} \begin{cases} x=ax'+by' \\ y=cx'+dy' \end{cases}
\tag{4} \left\{\begin{aligned} x'&=\frac{dx-by}{ad-bc} \\ y'&=\frac{-cx+ay}{ad-bc} \end{aligned}\right.

$(1)$ に $(4)$ を代入すれば元に戻ります。

\tag{1'} \left\{\begin{aligned} x&=a\left(\frac{ dx-by}{ad-bc}\right) +b\left(\frac{-cx+ay}{ad-bc}\right) =\frac{adx-bcx}{ad-bc}=x \\ y&=c\left(\frac{ dx-by}{ad-bc}\right) +d\left(\frac{-cx+ay}{ad-bc}\right) =\frac{ady-bcy}{ad-bc}=y \end{aligned}\right.

$(4)$ に $(1)$ を代入しても元に戻ります。

\tag{4'} \left\{\begin{aligned} x'&=\frac{d(ax'+by')-b(cx'+dy')}{ad-bc} =\frac{adx'-bcx'}{ad-bc}=x' \\ y'&=\frac{-c(ax'+by')+a(cx'+dy')}{ad-bc} =\frac{ady'-bcy'}{ad-bc}=y' \end{aligned}\right.

$(1')$ と $(4')$ を行列の積で表せば、行列と逆行列の積、逆行列と行列の積が単位行列になることに対応します。

逆行列の性質
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1} =\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} =I

このように逆行列が存在すれば変換結果を元に戻せます。

逆行列を持つ行列を正則であると表現して、正則行列と呼びます。

正則行列 行列 $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ は $ad-bc≠0$ のときに正則(逆行列を持つ)

変換が一方通行でないのは重要な性質です。そのため特別な名前が付いています。