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零因子ペアの生成

行列に掛けて零行列となるようなペアの行列を生成します。

シリーズの記事です。

  1. 一次変数変換と行列の積
  2. 単位行列と逆行列
  3. 掃き出し法と逆行列
  4. 行列の積の性質
  5. 行列の演算
  6. ケイリー・ハミルトンの定理
  7. 零行列と冪零行列
  8. 冪零行列と二重数
  9. 零因子ペアの生成 ← この記事
  10. 三種類の二元数
  11. 分解型四元数と同型対応
  12. 分解型四元数と幾何代数
  13. 行列表現と外積と行列式

目次

零因子

零行列ではない行列同士の積が $O$ となることがあります。

AB=O

この場合の $A$ と $B$ を零因子と呼びます。$A=B$ の場合は冪零行列です。

零因子は非正則です。もし零因子が正則であれば結合則に反するためです。

\tag{\textcolor{red}{間違い}} \begin{aligned} B=(A^{-1}A)B&≠A^{-1}(AB)=O \\ O=(AB)B^{-1}&≠A(BB^{-1})=A \end{aligned}

※ 成分を調べなくても分かるのが面白いです。

零行列は特別な零因子です。相手が正則行列であっても $O$ にしますが、結合則を満たします。

\begin{aligned} (A^{-1}A)O&=A^{-1}(AO)=O \\ (OB)B^{-1}&=O(BB^{-1})=O \end{aligned}

※ 資料によっては零行列を零因子から外すものがあります。

ペアの生成

すべての非正則行列は零因子となり得ます。零因子のペアを生成する方法を説明します。

A=\begin{pmatrix}a &b \\c &d \end{pmatrix}≠O ,~ B=\begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix}≠O
AB =\begin{pmatrix}a &b \\c &d \end{pmatrix} \begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix} =\begin{pmatrix} aa'+bc' & ab'+bd' \\ ca'+dc' & cb'+dd' \end{pmatrix}=O
\begin{cases} ad-bc=0&(1) \\ a'd'-b'c'=0&(2) \\ aa'+bc'=0&(3) \\ ab'+bd'=0&(4) \\ ca'+dc'=0&(5) \\ cb'+dd'=0&(6) \end{cases}

まず $A$ を固定して、$AB=O$ となるような $B$ を1つ生成します。

$(2)$ より $a'$ と $b'$、$c'$ と $d'$ は定数倍の関係にあります。そのため $(3)$ と $(4)$ は実質同じ式で、$(5)$ と $(6)$ も同様です。従って未知数4つに対して関係式2つとなるため、2つの自由度があります。以下で「適当に決める」と書いているのは、この自由度を埋めることに相当します。

  1. $A$ の成分 $a,b,c,d$ に $0$ が含まれない場合
    $(3)$~$(6)$ からどれか1つを選んで、$B$ の成分を適当に決めます。残りの成分は横に定数倍することで $B$ は決まります。
  2. $A$ の成分 $a,b,c,d$ に $0$ が含まれる場合
    $(3)$~$(6)$ から左辺が $0$ にならない式を1つ選んで、$B$ の成分を適当に決めます。$0$ が多くて決められない場合は適当に埋めます。

$B$ を固定して $A$ を決める場合も、同じ要領でできます。

具体例1

具体例を示します。

A=\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}

$(3)$ より $aa'+bc'=a'+2c'=0$ となり、適当に $a'=2,c'=-1$ と決めます。$a'$ を決めれば自動的に $c'$ が決まるため、ここで消費される自由度は1つです。

B=\begin{pmatrix}2&b'\\-1&d'\end{pmatrix}

それぞれ横に定数倍します。適当に $2$ 倍します($0$ 倍でも $1$ 倍でも構いません)。ここで2つ目の自由度が消費されます。

B=\begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix}

※ 横に定数倍で決まるのは $B$ が非正則だからです。

計算してみると、零因子になっていることが確認できます。

AB =\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}2-2&4-4\\4-4&8-8\end{pmatrix}=O

もし $a'=c'=0$ と決めた場合、横に定数倍しても零行列にしかならないので、残りは積の成分を見て決める必要があります。

B=\begin{pmatrix}0&b'\\0&d'\end{pmatrix}

$(4)$ より $ab'+bd'=b'+2d'=0$ となり、適当に $b'=-2,d'=1$ と決めます。

B=\begin{pmatrix}0&-2\\0&1\end{pmatrix}

計算してみると、零因子になっていることが確認できます。

AB =\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}0&-2\\0&1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&-2+2\\0&-4+4\end{pmatrix}=O

具体例2

$0$ が多い行列のペアを作るときは注意が必要です。

A=\begin{pmatrix}0&0\\1&2\end{pmatrix}

$(3)$ より $aa'+bc'=0a'+0c'=0$ となり、$a',c'$ の値は無視されるため飛ばします。

$(5)$ より $ca'+dc'=a'+2c'=0$ となり、適当に $a'=-2,c'=1$ と決めます。

B=\begin{pmatrix}-2&b'\\1&d'\end{pmatrix}

それぞれ横に定数倍します。適当に $-1$ 倍します。

B=\begin{pmatrix}-2&2\\1&-1\end{pmatrix}

計算してみると、零因子になっていることが確認できます。

AB =\begin{pmatrix}0&0\\1&2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}-2&2\\1&-1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&0\\-2+2&2-2\end{pmatrix}=O

零因子の作り方が分かってくると、積の計算で成分に $0$ が表れたときに零因子かどうかピンと来るようになるかもしれません。

交換

行列が必ずしも交換則を満たさないのは零因子も例外ではありません。

\begin{aligned} \begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}2-2&4-4\\4-4&8-8\end{pmatrix}=O \\ \begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}2+8&4+16\\-1-4&-2-8\end{pmatrix}≠O \end{aligned}

交換則を満たす組み合わせも存在します。

\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}

以下より引用しました。

参考

高校の教育課程に行列があった時代に、高校生への指導や教員による数学的分析を書いた資料です。このシリーズではまだ扱っていない幾何的な内容などを含みます。

幾何的な零因子の解説です。零因子を生成する練習問題があります。

このシリーズでもいずれ幾何的な内容は取り入れる予定です。