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零因子ペアの生成

行列に掛けて零行列となるようなペアの行列を生成します。

『行列と代数系』シリーズの記事です。

  1. 実二次正方行列の初歩
    1. 一次変数変換と行列の積
    2. 単位行列と逆行列
    3. 掃き出し法と逆行列
    4. 行列の積の性質
    5. 行列の演算
    6. ケイリー・ハミルトンの定理
    7. 零行列と冪零行列
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  2. 実二次正方行列と代数系

目次

零因子

零行列ではない行列同士の積が $O$ となることがあります。

AB=O\quad(A≠O,B≠O)

この場合の $A$ と $B$ を零因子と呼びます。$A=B$ の場合は冪零行列です。

零因子は非正則です。もし零因子が正則であれば結合則に反するためです。

\tag{\textcolor{red}{間違い}} \begin{aligned} B=(A^{-1}A)B&≠A^{-1}(AB)=O \\ O=(AB)B^{-1}&≠A(BB^{-1})=A \end{aligned}

※ 成分を調べなくても分かるのが面白いです。

零行列は特別な零因子です。相手が正則行列であっても $O$ にしますが、結合則を満たします。

\begin{aligned} (A^{-1}A)O&=A^{-1}(AO)=O \\ (OB)B^{-1}&=O(BB^{-1})=O \end{aligned}

※ 資料によっては零行列を零因子から外すものがあります。

ペアの生成

零因子のペアを生成する方法を説明します。

A=\begin{pmatrix}a &b \\c &d \end{pmatrix}≠O ,~ B=\begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix}≠O
AB =\begin{pmatrix}a &b \\c &d \end{pmatrix} \begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix} =\begin{pmatrix} aa'+bc' & ab'+bd' \\ ca'+dc' & cb'+dd' \end{pmatrix}=O
\begin{cases} ad-bc=0&(1) \\ a'd'-b'c'=0&(2) \\ aa'+bc'=0&(3) \\ ab'+bd'=0&(4) \\ ca'+dc'=0&(5) \\ cb'+dd'=0&(6) \end{cases}

零行列ではない非正則行列 $A$ を固定して、$AB=O$ となるような $B$ を1つ生成します。$B$ は一意には決まらないため、いくつか適当に決める個所があります。

  1. $(3)$~$(6)$ から左辺が $0$ にならない式を1つ選びます。($A$ が零行列でなければ、すべての式が $0$ にはなりません)
  2. 選んだ式に含まれる $B$ の成分の 1 つを適当に決めれば、式に含まれるもう 1 つの成分が決まります。
  3. 残りの成分は横に定数倍することで決まります。

$B$ を固定して $A$ を決める場合も、同じ要領でできます。

具体例1

具体例を示します。

A=\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}

$(3)$ を選べば $aa'+bc'=a'+2c'=0$ となり、適当に $a'=2$ と決めれば $c'=-1$ となります。

B=\begin{pmatrix}2&b'\\-1&d'\end{pmatrix}

非正則の条件 $(2)$ を満たすため、それぞれ横に定数倍します。適当に $2$ 倍します($0$ 倍でも $1$ 倍でも構いません)。

B=\begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix}

計算してみると、結果が零行列になることが確認できます。

AB =\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}2-2&4-4\\4-4&8-8\end{pmatrix}=O

具体例2

$0$ が多い行列のペアを作るときは注意が必要です。

A=\begin{pmatrix}0&0\\1&2\end{pmatrix}

$(3)$ を選べば $aa'+bc'=0a'+0c'=0$ となり、$a',c'$ の値は無視されるため、この条件は使えません。

$(5)$ を選べば $ca'+dc'=a'+2c'=0$ となり、適当に $a'=-2$ と決めれば $c'=1$ となります。

B=\begin{pmatrix}-2&b'\\1&d'\end{pmatrix}

それぞれ横に定数倍します。適当に $0$ 倍します。

B=\begin{pmatrix}-2&0\\1&0\end{pmatrix}

計算してみると、結果が零行列になることが確認できます。

AB =\begin{pmatrix}0&0\\1&2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}-2&0\\1&0\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&0\\-2+2&0\end{pmatrix}=O

交換

行列が必ずしも交換則を満たさないのは零因子も例外ではありません。

\begin{aligned} \begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}2-2&4-4\\4-4&8-8\end{pmatrix}=O \\ \begin{pmatrix}2&4\\-1&-2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}2+8&4+16\\-1-4&-2-8\end{pmatrix}≠O \end{aligned}

交換則を満たす組み合わせも存在します。

\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}

以下より引用しました。

参考

高校の教育課程に行列があった時代に、高校生への指導や教員による数学的分析を書いた資料です。このシリーズではまだ扱っていない幾何的な内容などを含みます。

幾何的な零因子の解説です。零因子を生成する練習問題があります。

このシリーズでもいずれ幾何的な内容は取り入れる予定です。


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