複素正則関数の舞台裏を視覚化するため、調和微分形式を生成するスカラーポテンシャルを簡単な具体例とグラフで確認します。
シリーズの記事です。
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目次
概要
複素正則関数 $f$ は2つの実調和関数 $u,v$ によって構成されます。
f(x,y)=u(x,y)+v(x,y)i
$f$ に対応する調和微分形式 $ω$ を定義します。
ω=u\,dx-v\,dy
調和微分形式は閉形式かつ余閉形式です。
dω=δω=0\ ⇔\ Dω=0
調和微分形式は実調和関数 $ϕ$ で表されるスカラーポテンシャルの外微分によって生成されます。
\begin{aligned}
dϕ&=ω \\
\frac{∂ϕ}{∂x}dx+\frac{∂ϕ}{∂y}dy&=u\,dx-v\,dy \\
∴\ \frac{∂ϕ}{∂x}=u\ ,&\quad\frac{∂ϕ}{∂y}=-v
\end{aligned}
簡単な正則関数がどのようなスカラーポテンシャルから生成されるのかを確認します。
1次式
$z$ を複素数として、複素関数 $f _ 1$ を定義します。
f_1(z)=z
$z=x+yi$ として実部と虚部に分解します。
f_1(x,y)=x+yi
$f_1$ に対応する調和微分形式 $ω _ 1$ を定義します。
ω_1=x\,dx-y\,dy
$Dω _ 1=0$ より調和微分形式であることを確認します。
\begin{aligned}
Dω_1
&=\left(dx\frac∂{∂x}+dy\frac∂{∂y}\right)(x\,dx-y\,dy) \\
&=\left(dx\frac∂{∂x}+dy\frac∂{∂y}\right)x\,dx-\left(dx\frac∂{∂x}+dy\frac∂{∂y}\right)y\,dy \\
&=(1+0)-(0+1) \\
&=0
\end{aligned}
外微分により $ω _ 1$ を生成するスカラーポテンシャル $ϕ _ 1$ を求めます。
\begin{aligned}
\frac{∂ϕ_1}{∂x}=x\ &,\quad\frac{∂ϕ_1}{∂y}=-y \\
ϕ_1=\frac{x^2}2+C\ &,\quadϕ_1=-\frac{y^2}{2}+C'
\end{aligned}
単純に結合して外微分してみます。(定数項の任意性は無視します)
\begin{aligned}
ϕ_1&=\frac{x^2-y^2}2 \\
dϕ_1&=x\,dx-y\,dy
\end{aligned}
うまく行きました。これらをプロットします。
良く似た形ですが正則関数ではない例を確認します。
\begin{aligned}
f(z)&=\bar z \\
f(x,y)&=x-yi \\
ω&=x\,dx+y\,dy \\
Dω&=(1+0)+(0+1)=2
\end{aligned}
$Dω≠0$ より $ω$ は調和微分形式ではなく、$f$ は正則関数ではありません。
$dω=0$ ではあるので、$dϕ=ω$ となる $ϕ$ は存在します。
\begin{aligned}
ϕ&=\frac{x^2+y^2}2 \\
dϕ&=x\,dx+y\,dy
\end{aligned}
※ $dω$ は回転(rot)、$dϕ$ は勾配(grad)に相当します。スカラーポテンシャルが存在することは、回転がないことを意味します。
回転(rot)がないことから、$Δϕ=2$ は発散(div)の値です。グラフを見ると、明らかに原点から湧き出しがあります。
2次式
f_2(z)=z^2
実部と虚部に分けると、少し入り組んだ形になります。
f_2(x,y)=(x+yi)^2=(x^2-y^2)+2xyi
調和微分形式であることを確認します。
\begin{aligned}
ω_2&=(x^2-y^2)dx-2xy\,dy \\
Dω_2&=(2x-2y\,dy\,dx)-(2y\,dx\,dy+2x)=0
\end{aligned}
スカラーポテンシャルを確認します。
\begin{aligned}
ϕ_2&=\frac{x^3}3-xy^2 \\
dϕ_2&=(x^2-y^2)dx-2xy\,dy
\end{aligned}
複素共役を2乗してみます。
\begin{aligned}
f(z)&=\bar z^2 \\
f(x,y)&=(x-yi)^2=(x^2-y^2)-2xyi \\
ω&=(x^2-y^2)dx+2xy\,dy \\
Dω&=(2x-2y\,dy\,dx)+(2y\,dx\,dy+2x)=\underbrace{4x}_{\mathrm{div}}+\underbrace{4y\,dx\,dy}_{\mathrm{rot}}
\end{aligned}
$Dω≠0$ より $ω$ は調和微分形式ではなく、$f$ は正則関数ではありません。
回転(rot)があることから、スカラーポテンシャルは存在しません。グラフを見ると、ループが形成されています。
3次式
f_3(z)=z^3
実部と虚部に分けると、$x$ と $y$ が対称な形で現れます。
f_3(x,y)=(x+yi)^3=(x^3-3xy^2)-(y^3-3x^2y)i
調和微分形式であることを確認します。
\begin{aligned}
ω_3&=(x^3-3xy^2)dx+(y^3-3x^2y)dy \\
Dω_3&=(3x^2-3y^2-6xy\,dy\,dx)+(-6xy\,dx\,dy+3y^2-3x^2)=0
\end{aligned}
スカラーポテンシャルを確認します。
\begin{aligned}
ϕ_3&=\frac{x^4-6x^2y^2+y^4}4 \\
dϕ_3&=(x^3-3xy^2)dx+(y^3-3x^2y)dy
\end{aligned}
今までの結果を組み合わせて多項式を確認します。
\begin{aligned}
f(z)&=z^3+5z^2+10z \\
&=f_3(z)+5f_2(z)+10f_1(z) \\
ω&=ω_3+5ω_2+10ω_1 \\
ϕ&=ϕ_3+5ϕ_2+10ϕ_1
\end{aligned}
指数関数
\begin{aligned}
f(z)&=e^z \\
f(x,y)&=e^{x+yi}=e^x e^{yi}=e^x\left(\cos y+i\sin y\right)
\end{aligned}
調和微分形式であることを確認します。
\begin{aligned}
ω&=e^x\cos y\,dx-e^x\sin y\,dy \\
Dω&=e^x\{(\cos y-\sin y\,dy\,dx)-(\sin y\,dx\,dy+\cos y)\}=0
\end{aligned}
スカラーポテンシャルを確認します。
\begin{aligned}
ϕ&=e^x\cos y \\
dϕ&=e^x\cos y\,dx-e^x\sin y\,dy
\end{aligned}
$x$ 軸方向には三角関数、$y$ 軸方向には双曲線関数の性質が現れます。
sin
\begin{aligned}
f(z)&=\sin z \\
f(x,y)&=\sin(x+yi)=\sin x\
cosh y+i\cos x\
sinh y
\end{aligned}
調和微分形式であることを確認します。
\begin{aligned}
ω&=\sin x\
cosh y\,dx-\cos x\
sinh y\,dy \\
Dω&=(\cos x\
cosh y+\sin x\
sinh y\,dy\,dx)-(-\sin x\
sinh y\,dx\,dy+\cos x\
cosh y)=0
\end{aligned}
スカラーポテンシャルを確認します。
\begin{aligned}
ϕ&=-\cos x\
cosh y \\
dϕ&=\sin x\
cosh y\,dx-\cos x\
sinh y\,dy
\end{aligned}
cos
\begin{aligned}
f(z)&=\cos z \\
f(x,y)&=\cos(x+yi)=\cos x\
cosh y-i\sin x\
sinh y
\end{aligned}
調和微分形式であることを確認します。
\begin{aligned}
ω&=\cos x\
cosh y\,dx+\sin x\
sinh y\,dy \\
Dω&=(-\sin x\
cosh y+\cos x\
sinh y\,dy\,dx)+(\cos x\
sinh y\,dx\,dy+\sin x\
cosh y)=0
\end{aligned}
スカラーポテンシャルを確認します。
\begin{aligned}
ϕ&=\sin x\
cosh y \\
dϕ&=\cos x\
cosh y\,dx+\sin x\
sinh y\,dy
\end{aligned}
まとめ
複素正則関数 $f=u+vi$ は実調和関数 $ϕ$ から生成され、中に2つの実調和関数 $u,v$ を持ちます。調和関数が調和関数を生み出すのが、不思議な連鎖構造だと感じました。
正則関数 | 調和微分形式 | スカラーポテンシャル |
z | x\,dx-y\,dy | \frac{x^2-y^2}2 |
z^2 | (x^2-y^2)dx-2xy\,dy | \frac{x^3}3-xy^2 |
z^3 | (x^3-3xy^2)dx+(y^3-3x^2y)dy | \frac{x^4-6x^2y^2+y^4}4 |
e^z | e^x\cos y\,dx-e^x\sin y\,dy | e^x\cos y |
\sin z | | |
\cos z | | |
Jupyter Notebook
グラフは Jupyter Notebook で作成しました。