特殊相対性理論における時間の変換は、基底と成分という視点で考えることでより体系的に理解することができます。ローレンツ因子の定義から始めて、微分形式を経由して時刻の変換式を導出し、さらにそれが基底の変換とは逆の関係になっている構造を説明します。
シリーズの記事です。
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- 時間遅延とラグランジアン
目次
Wikipedia の記事に対する補足説明として書きました。
※ 本記事では記号を統一するため $\tau$
を $t'$
に変更しました。
時間の変換
特殊相対論において、ローレンツ因子 $\gamma$
は以下の式で定義されます。
\gamma = \frac{1}{\sqrt{1-\dfrac{v^2}{c^2}}}=\frac{dt}{dt'}
これを変形すれば、微分形式での時間の変換式が得られます。
dt = \gamma\,dt'
両辺を積分し、積分定数を 0 とすると(時刻の原点を合わせると)、時刻の変換式が得られます。
t = \gamma t'
※ $v$
が時間的に変化しない場合の変換式です。
一方、時間間隔は逆の変換則に従います。
\Delta t' = \gamma \Delta t
変換則
これら2つの変換式において $t$
の位置が逆になっているのは、時間間隔の変換は基準(基底)の変換、時刻の変換は成分の変換に相当するためです。
たとえば長さのスケールを考える。単位をメートル m からセンチメートル cm に変更する、すなわち長さの基準を 1/100倍に変える。このとき、長さの値は100倍になる。同様に位置ベクトルや速度ベクトルの各成分も 100 倍となる。このように、座標系の基準スケールを変えたときに、基準の変化とは逆の変化を要請することを反変性という。
時間間隔(基底)の変換:
時間間隔$\Delta t$
は時間を測る「ものさし」に相当するため、基底ベクトルとして考えることができます。時間間隔の変換式$\Delta t' = \gamma \Delta t$
は、時間の基底がどのように変換されるかを表します。$\gamma$
は 1 以上の値なので、変換後の基底は引き伸ばされます。時刻(成分)の変換:
基底の変換$\Delta t' = \gamma \Delta t$
に伴う成分の変換は$t' = \dfrac{1}{\gamma} t$
となります(反変性)。この逆変換が$t = \gamma t'$
です。
例
$γ = 2$
での変換状況を図示します。t' の時間間隔が引き延ばされた結果、時間の進みが遅れます。
青矢印:時刻(成分)の変換
同じ長さが異なる座標値として表されます。赤矢印:時間間隔(基底)の変換
時間間隔が$γ$
倍に引き伸ばされます。