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イヴァネンコ・ランダウ・ケーラー方程式との出会い

d-δ をついに見付けました!Kähler とは・・・ノーマークでした。

目次

概要

微分と余微分を対にしてディラック作用素として扱えば、ベクトル解析がすっきり扱えて便利だと思っていました。

当初は計算方法を間違えて $d+δ$ だと思い込んだのですが、先月ようやく $d-δ$ が正しいということを確認しました。

$d-δ$ の組み合わせは他では見掛けなかったのですが、ついに見付けました!

It is also interesting to note that in his previous work, Kruglov [60a] has argued in favor of Dirac-Kahler equation:

(d−δ+m)ψ=0,\tag{48c}

where the operator $(d−δ)$ is the analog of Dirac operator $γ _ μ∂ ^ μ$.

ディラック作用素の由来ということでディラック方程式は重視していたのですが、そこから派生したディラック・ケーラー方程式は知りませんでした。

調べてみると、ディラック方程式とは少し違うようです。

In 1928, Ivanenko and Landau developed the theory of fermions as skew-symmetric tensors. This theory, known as the Ivanenko-Landau-Kahler theory, is not equivalent to Dirac's one in the presence of a gravitation field, and only it describes fermions on a lattice.

個人的には重大な出来事だったので、見付けた経緯を残しておきます。

経緯

wikipedia:四元数を眺めていて、次の記述が目に留まりました。

2007年、アレキサンダー・エフレモフとその共同研究者は、四元数空間幾何がヤン・ミルズ場と近しい関係にあることを示し、ダフィン・ケマー・ペティアウ方程式(英語版)とクライン・ゴルドン方程式への関連性を指摘した[16]。

なんだか凄いことが書いてあります。さっそく覗いてみました。

正直あまり理解できなかったのですが、気になるものを見付けました。

E. Define a new “diamond operator” to extend quaternion-Nabla-operator to its biquaternion counterpart, according to the study [25]:

\begin{aligned} \Diamond=∇ ^ q+i∇ ^ q&=\left(−i\frac∂{∂t}+e _ 1\frac∂{∂x}+e _ 2\frac∂{∂y}+e _ 3\frac∂{∂z}\right) \\\\ &+i\left(−i\frac∂{∂T}+e _ 1\frac∂{∂X}+e _ 2\frac∂{∂Y}+e _ 3\frac∂{∂Z}\right),\tag{68} \end{aligned}

where $e _ 1,e _ 2,e _ 3$ are quaternion imaginary units. Its conjugate can be defined in the same way as before.

このダイアモンド作用素を使ってクライン・ゴルドン方程式を一般化しています。

(\Diamond\bar\Diamond+m ^ 2)φ(x,t)=0,\tag{70}

ダランベルシアンにしては要素数が多く、$T,X,Y,Z$ が大文字で区別されているのも気になります。参照されている[25]が先ほどの Vic Christianto (2014) でした。

ダイアモンド作用素の由来は分かりませんでしたが、ディラック・ケーラー方程式の名前が分かったので、調べてみました。

Kähler [12] showed that the Dirac equation for particles with spin 1/2 can be constructed from inhomogeneous differential forms. Now such fields are called Dirac-Kähler fields. Using the language of differential forms, Dirac-Kähler’s equation in four dimensional space-time is given by

(d−δ+m)Φ=0

where $d$ denotes the exterior derivative, $δ=−⋆d⋆$ turns $n−$forms into $(n−1)−$form; $⋆$ is the Hodge operator [25] which connects a $n−$form to a $(4−n)−$form so, that $⋆ ^ 2= 1,d ^ 2=δ ^ 2= 0$. The Laplacian is given by

(d−δ) ^ 2=−(dδ+δd)=∂ _ μ∂ ^ μ

So, the operator $(d−δ)$ is the analog of the Dirac operator $γ _ μ∂ ^ μ$.

こちらは余微分の定義や、ディラック作用素(の類似物)の2乗がラプラシアンになることも説明されています。今まで散々取り上げて来たことではあるのですが、ピンポイントで説明を読んだのは初めてです。

この論文にはランダウとの関係が述べられています。

It should be noted that Ivanenko and Landau [25] considered (in 1928) an equation for the set of antisymmetric tensor fields which is equivalent to the Dirac-Kähler equation (1).

[25]を探した所、ドイツ語の論文でした。(ロシア語のサイトですが)

方程式の形も違い過ぎて、どこがディラック・ケーラー方程式に対応するのかも不明でした。

この論文を参照している論文を探しました。

先行研究を含めてイヴァネンコ・ランダウ・ケーラー方程式と呼ぶようです。

この論文は導入が丁寧です。そして注目するのはここです。

(d−δ)=∂ _ μdx ^ μ∨

最後に付いている $∨$ は幾何積です。ディラック作用素は幾何積として作用することがそのまま表現されています。

微分形式とクリフォード代数を融合したスタイルは、自分ではいつも使ってはいるのですが、他の人が使っているのは初めて見ました。同じ発想を持てば必然的にそうなるということが確認できて安心しました。

こうなるとケーラーの原論文が気になります。以下に AI による要約を掲載しました。

他にも資料を探しましたが、1985年の段階で既に $d-δ$ のスタイルが確認できました。

Let $Φ$ be the complex inhomogeneus differential form on the four-dimensional flat differentiable manifold,

Φ=\sum_{k=0} ^ 4\frac1{k!}φ _ {μ _ 1\cdots μ _ k}dx ^ {μ _ 1}∧\cdots∧dx ^ {μ _ k},\tag{1}

The Ivanenko-Landau-Kähler (ILK) equation is

\\{i(d-δ)-m\\}Φ=0,\tag{2}

where $d$ and $δ$ are, respectively, the exterior differential and co-differential:

数式が手書きなのに時代を感じます。イヴァネンコが直接関わっています。IAEA国際原子力機関)の論文というのも興味深いです。

ケーラーについて

ケーラーのことを知らなかったので、wikipedia:エーリッヒ・ケーラーを読んでみます。

ケーラーは、例えば微分形式のマクスウェル方程式ディラック方程式など、数理物理学にも取り組んだ。彼は、エリ・カルタンによる微分形式をさらに発展させ(カルタン・ケーラー理論、ケーラー微分)、微分方程式系の理論に応用した。他にも影響の大きい業績として、2変数複素関数に関連する理論が挙げられる。

ケーラーは数論が物理学においてもっと大きな役割を果すべきであると確信していた[5]。そのため、彼は非主流のアイデアを追い求めることになった。例えば、特殊相対性理論におけるローレンツ群を「新ポアンカレ群」と呼ばれるもの(これはヘルマン・ニコライによる[6]ド・ジッター群と同一である)と置き換えた[7]。 彼は、この群を離散部分群かつ保型形式に属するものと考えており、それゆえ数論と結びつけていた。

かなり壮大な構想を抱いていたようです。今まで敬遠していたケーラー多様体にも興味が湧いて来ました。